2006年03月25日

おわりの雪 / ユベール・マンガレリ [書評]

おわりの雪おわりの雪
ユベール・マンガレリ / Hubert Mingarelli
田久保麻理

単行本, 白水社, 2004/12/10

 一切の装飾を省いたこの上なくシンプルな物語世界で、マンガレリは日常のささやかな情景を、そっとつぶやくように物語る。かぎられた小さな舞台、最小限の登場人物、大きな事件もなければ余計な説明もない。そのかぎりなく静寂に近い世界には、人生の純粋なエッセンスだけが存在し、そこでは、繰り返される日々の中の小さな変化が、季節の移り変わりとあいまって一つの物語となり、読む者の心に静かに沁み込んでくる。この作品の訳者田久保麻理は、あとがきの中で、マンガレリの作品をこう言い表している。
 そっけないほど淡々とした、やさしい言葉でつづられる作品は、読みこむほどに重みをましてゆく。それはまちがっても眉に皺をよせて深刻に考えこんでしまうような重みではなく、たとえるなら、人生の美しさと哀しみが凝縮した小さな雪の結晶が、すこしずつ大地に降り積もっていくような重み、とでもいったらいいだろうか。
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2006年03月22日

カイト・ランナー / カーレド・ホッセイニ [読書日記]

カイト・ランナーカイト・ランナー
カーレド・ホッセイニ / Khaled Hosseini
佐藤耕士

単行本, アーティストハウスパブリッシャーズ, 2006/03

 先日書店で見かけて買った本。まずは紹介代わりに帯の文句をそのまま引用する。
Powerful, Beautiful, Moving, Big-hearted book!
全米300万部!NYタイムズベストセラーリストに64週ランキング。

12歳の冬、わたしは人を裏切り、嘘をつき、罪を犯した。
26年後、「もう一度やり直す道がある」という友人からの電話に
カブールへ旅立つ―。
自らを救う道を真に問う、心を揺さぶる救済の物語。

映画化決定!
 タイトルは『カイト・ランナー』。著者はアフガニスタンに生まれ、後にアメリカに亡命したカーレド・ホッセイニ。これが彼のデビュー作である。ちなみに映画はかのドリーム・ワークスが制作するらしい。続きを読む
2006年03月12日

告白 / 町田康 [書評]

告白告白
町田康

単行本, 中央公論新社, 2005/03/25

 時代は明治。河内の百姓の倅として生まれた主人公熊太郎は、ひどく思弁的でありながら、その思弁を伝える言葉を持たず、それがために周囲とうまく交わることができない。熊太郎の目には、思考と言動とが直結している他者が軽薄な人間と映り、彼は常に、奴らには自分のように内面で深い思慮を重ねている人間のことは理解できないだろうと思っている。いきおい熊太郎の思弁は内向し、その身体の中で暴れ出し、自身を蝕み、あげく愚行となって表出する。それによって熊太郎はますます孤立を深め、やがて彼は、河内音頭にも唄われる「河内十人斬り」の惨劇へと向かってゆく。

 どこで聞いた話だったか、作家のもとに寄せられる読者からの手紙やメールには、「あれは私のことですね。どうして私のことをそんなによく知っているんですか?」とか「私に黙って勝手に私のことを書くなんてひどいじゃないですか」とかいうのがたまにあるという。またそこまで重症ではなくとも、「私と主人公とにはこれこれこういう共通点があるので、私には主人公の気持ちがよくわかります」という自意識過剰な読書感想文は珍しくない。そういうのを見るたびに鼻白んでしまうのは、独り評者だけではあるまい。続きを読む
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