2006年08月31日

和泉式部 人と文学 / 武田早苗 [読書日記]

和泉式部 人と文学和泉式部 人と文学
武田早苗

単行本, 勉誠出版, 2006/07

 冥きより冥き道にぞ入りぬべき遥かに照らせ山の端の月

 黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき

 とどめおきて誰をあはれと思ひけん子はまさるらん子はまさりけり

 狂おしいまでの恋の哀歓や、この世の無常、あるいは己が内なる心の闇を直截に詠んだ和泉式部の歌は、千年の時を経てなお読む者の魂を激しく揺さぶる。現代においても彼女の歌に惹かれる人は決して少なくない。稀代の大歌人、いや、日本文学史上最高と云っていいだろうこの歌人について、松岡正剛はこんなふうに語っている。
 こんな歌人はざらにはいない。わかりやすく一言でいえば、与謝野晶子は和泉式部なのだ。(中略)晶子ばかりではない。樋口一葉も山川登美子も、生方たつゑも円地文子も馬場あき子も、和泉式部だった。きっと岡本かの子も瀬戸内寂聴も俵万智も、ユーミンも中島みゆきも椎名林檎も、“その後の和泉式部”なのである。恋を歌った日本人の女性で和泉式部を詠嘆できない者がいるとはぼくには思えない。
 『和泉式部 人と文学』を読む。勉誠出版の『日本の作家100人』という評伝のシリーズの一冊である。続きを読む
2006年08月26日

あなたに不利な証拠として / ローリー・リン・ドラモンド [書評]

あなたに不利な証拠としてあなたに不利な証拠として
ローリー・リン・ドラモンド / Laurie Lynn Drummond
駒月雅子

単行本, 早川書房, 2006/02

 五人の女性警察官を主人公に据え、(一編を除いて)その一人ひとりを語り手に、日常と呼ぶにはあまりにも過酷な、彼女たちの警察官としての日々を、内省的に、しかし冷徹に綴った連作短編集である。

 著者のローリー・リン・ドラモンドは、かつて実際にルイジアナ州バトンルージュ市警に勤務した元警察官であり、交通事故によって職を辞した後、大学でクリエイティブ・ライティングを学び、十二年の歳月をかけ、この処女短編集を書き上げたという。この中の一篇『傷痕』によって、彼女はMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀短篇賞を受賞している。

 原題を『Anything You Say Can and Will Be Used Against You』という。アメリカで法執行官が被疑者を逮捕する際、被疑者に通告することが義務付けられている「ミランダ警告」という条文の一節である。映画やドラマなどで耳にしたことのある方も多いだろう、被疑者の権利の保護をうたったこの文言は、アメリカの警察官にとって、それを告知することを「Miranda-ize(本書では「ミランダする」と訳されている)」と一語で言い表すほど日常的かつ形式的な、言わばお約束である。この杓子定規な文言が、絶対的で融通のきかない組織の建前と、凄惨な事件現場、凶悪な犯罪者、そしてときに自らの生命の危機に直面する生身の人間の心情とのジレンマを象徴するかのように、作品全体に低く重くアイロニカルに響いている。続きを読む
2006年08月20日

福田和也の「文章教室」 / 福田和也 [読書日記]

福田和也の「文章教室」福田和也の「文章教室」
福田和也

単行本, 講談社, 2006/08/01

 『福田和也の「文章教室」』を読む。当初はその書評を書くつもりでいたのだが、佐吉は彼の著作に関しては『作家の値うち』ただ一冊しか読んでおらず、この多才・多作な文芸評論家の著書を語るには、あまりにも予備知識が少ない。なので、書評については他日を期すことにして、今回は書評ではなく読書日記、つまり主観的な感想文として、佐吉の感じたところを話すことにした。

 さて、この本は、「読む力」、「書く力」、「調べる力」の三つの章から成っている。福田自身、『これまで谷崎潤一郎、川端康成といった文豪のものをはじめとして、文章読本を名乗る本はたくさん出ていますが、「調べる」ことを大きな柱にしている本は、私の知るかぎりないと思います』と語っているとおり、いわゆる文章読本としては、「読む」こと、「書く」ことに加え、「調べる」ことを論じている点において異色である。続きを読む
2006年08月18日

クライマーズ・ハイ / 横山秀夫 (ドラマ/原作) [読書日記]

クライマーズ・ハイクライマーズ・ハイ
出演 佐藤浩市, 大森南朋, 岸部一徳 他
原作 横山秀夫

DVD, 角川エンタテインメント, 2006/05/12

 皆さんご存知の通り、去る8月15日、小泉首相が靖国神社を参拝した。現職首相の終戦記念日の参拝は、1985年の中曽根首相(当時)の公式参拝以来21年ぶりのことだと、その日、多くの機関が報じていた。1985年といえば、日航ジャンボ機が群馬県御巣鷹山に墜落した年である。中曽根首相の靖国参拝はその未曾有の大惨事の3日後のことだった。

 その大事故の報道をモチーフにした横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』は、2003年に刊行されてベストセラーとなり、昨年暮れNHKでドラマ化もされた。墜落事故の追悼慰霊祭にあたっていた先週末、NHK BS hi でその再放送があり、佐吉はそれを観た。

 物語は、航空機墜落事故の報道を巡る、架空の地方新聞の記者たちの緊張に満ちた1週間を描いた群像劇である。続きを読む
2006年08月14日

お江戸でござる / 杉浦日向子 [読書日記]

お江戸でござるお江戸でござる
杉浦日向子

文庫本, 新潮社, 2006/06

 朝、TVのニュースで、東京、千葉、そして神奈川の一部で大規模な停電があったことを知る。ほどなくして徐々に復旧したようだが、鉄道が止まったり、エレベーターに閉じ込められる人があったりと、各地で多くの人の足が乱れ、事故が相次いだそうだ。ちなみに佐吉はさいたま市在住で、今週は夏休みで自宅にいたので、その影響は受けていない。

 夜になって、TVニュースでその経緯が詳しく報じられた。それを見て、都市機能がいかに電気に依存しているか、その電力供給がいかに複雑で、同時にいかに脆いものかを、あらためて知った。それでもお盆で都内に人が少なかったことが、多少なりとも幸いしたらしいが、これがもし普段の平日だったら、気温の最も高い昼の時間帯だったら、夜だったら、雨の日だったら、あるいは某東京ビッグサイトで某巨大イベントが催されていた昨日だったら…と想像すると、思わずぞっとしてしまう。続きを読む
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