2008年03月28日

自分の体で実験したい-命がけの科学者列伝 / レスリー・デンディ他 [書評]

自分の体で実験したい−命がけの科学者列伝自分の体で実験したい−命がけの科学者列伝
レスリー・デンディ, メル・ボーリング
梶山あゆみ

単行本, 紀伊國屋書店, 2007/02

 あるいはカバー(ジャケット)のイラストから、自作の翼で空を飛べると信じ、高い崖や塔の上から飛び降りたタワージャンパーたちのように、自説を過信するあまり無謀な実験を試みたトンデモ科学者の話かと思う人もあるかもしれない。が、そうではない。本書は、ときに自らの生命にさえかかわる危険な実験に挑むことによって、新たな知見を拓いた科学者たちの逸話を綴った、いたって真面目な科学系の読み物である。原題は “Guinea Pig Scientists(モルモット科学者たち)”。もともとは青少年向けに書かれたもので、2006年に全米科学教師会主催の「優れた子ども向け一般科学書に贈られる賞」を受賞している。

 本書には、18世紀から現代にかけて、文字どおり自分の身体で実験をした科学者たちのエピソード10例が紹介されている。人間はどれだけの高温に耐えられるかを探ろうと、100度を超える室内に身を置いたジョージ・フォーダイス。消化の仕組みを調べるため、食物を入れた亜麻布の袋や木の筒を次々に飲み込んだラザロ・スパランツァーニ。ペルーいぼ病の謎を解明すべく、自ら病原菌に感染したダニエル・カリオン……。続きを読む
2008年03月20日

翻訳家の仕事 / 岩波書店編集部編 [書評]

翻訳家の仕事翻訳家の仕事
岩波書店編集部編

新書, 岩波書店, 2006/12

 翻訳とは、考えれば考えるほどわけのわからない行為である。ある言語で書かれたことがらを、完全に他の言語に置き換えることは原理的にできない。なのに翻訳家たちは、そんなことは百も承知で、原著と限りなく等価に近い相似物を創ろうと、訳語一つに呻吟する。いったい翻訳の何が彼らを惹きつけるのか。そもそも翻訳とはどういうことなのか。単純に答えの出せる質問ではないだろうが、本書はそんなつかみどころのない設問に対し、いくつかの手がかりを与えてくれる。

 本書は、岩波書店の雑誌『図書』に連載された「だから翻訳はおもしろい」をまとめたエッセイ集である。現役の翻訳家37人が、翻訳の魅力や苦悩や愉悦をありのままに語っている。高尚な比較文化論を展開する人、自らの来し方を振り返る人、翻訳にまつわる軽妙なエピソードを紹介する人、語り口は十人十色である。続きを読む
2008年03月16日

恥辱 / カーリン・アルヴテーゲン [書評]

恥辱恥辱
カーリン・アルヴテーゲン / Karin Alvtegen
柳沢由実子

文庫本, 小学館, 2007/11/06

 カーリン・アルヴテーゲンは、スウェーデン南部の小さな町に生まれ、ともに教師を務める両親のもと、常に文学が身近にあり、家族の誰もがものを書くという、知的で穏やかな家庭に育ったという。大叔母に『長靴下のピッピ』で知られるアストリッド・リンドグレーンがいて、その国民的児童文学作家の影響を強く受けたとも本人は語っている。しかし、そんな幸福な少女時代とは裏腹に、彼女が創作を始めたのは実に悲痛な動機からだった。

 きっかけは仲の良かった兄の事故死だった。折しも第二子の臨月を迎えていた彼女は、その悲しみをきちんと受け止めることができないまま出産と育児に忙殺され、さらに離婚を経験して、深刻な鬱状態に陥り、療養生活を余儀なくされる。そしてその心の痛みを真正面から見つめるため、つまり一種の心理療法として、文章を書き始めたのだという。続きを読む
2008年03月05日

古本屋の女房 / 田中栞 [書評]

古本屋の女房古本屋の女房
田中栞

単行本, 平凡社, 2004/11

 古本屋の店主や古書の愛好家が、古本屋にまつわるエピソードや古書についての薀蓄を語った書は枚挙に暇がない。そうした「古本の本」は古本好きにはこたえられないものである。評者もご多分にもれず、作家にして古書店の店主でもあった出久根達郎や、無類の古本好きで「神保町ライター」を自称する岡崎武志などのエッセイを愛読している。本書『古本屋の女房』もまた古本と古本屋について書かれたエッセイの一冊なのだが、この本は著者が女性であるという点で、ひときわ異彩を放っている。

 著者の田中栞は、本好き、古本好きが高じて古本屋の主人と結婚し、文字通り「古本屋の女房」となった女性である。そんな彼女だから、妊娠、出産、育児と家庭のことに追われながらも、趣味と実益を兼ねた古書マニアはやめられない。大きなお腹を抱えて、赤ん坊を負ぶって、ベビーカーを押して、おじさんたちの加齢臭立ちこめる古書展に出向き、篆刻教室に通ってオリジナルの蔵書印を作り、全国各地の古本屋を訪ねてはせどりに励む。ちなみに「せどり」とは、ブックオフの100円均一本など他の古書店で安く仕入れた書籍を、より高い値段で転売して利鞘を稼ぐことをいう。続きを読む
2008年03月02日

『リアル鬼ごっこ』は「リアル」だったのか [雑記帖]

リアル鬼ごっこリアル鬼ごっこ
山田悠介

単行本, 文芸社, 2001/11

 佐吉がその本の存在を知ったのは、独自の視点と歯に衣着せぬクールな語り口で、多くの映画ファンから一目置かれている、ミワさんの映画レビューのサイトによってだった。ミワさんはそこで、先頃公開されたとある邦画のレビューを書かれていた。

 映画そのものについては、ミワさんの評価は決して芳しいものではなかった。けれどミワさんは、それでも原作と比べると、よくぞこんなきちんとした映画にできたものだと泣けてくる、とも書かれていた。曰く、原作は世界観が幼稚で構成が杜撰(ずさん)、めちゃくちゃな日本語で書かれた文章は、語彙が貧弱で比喩も浅薄、要するにおよそ評価すべきところのない小説なのだそうだ。

 しかし、ならばどうしてそんな小説が映画化されたのだろう。そもそもそれはどんな小説なのだろう。物好きな佐吉はにわかに好奇心を掻きたてられ、その原作『リアル鬼ごっこ』についての情報を、ネット上でいくつか拾ってみた。すると実に興味深いことがわかった。続きを読む
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