2006年05月26日

しゃばけ / 畠中恵 [書評]

しゃばけしゃばけ
畠中恵

文庫本, 新潮社, 2004/03

 2001年度の第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。日本ファンタジーノベル大賞は、多くの才気あふれる作家を発掘してきたことで知られ、その受賞作には、純文学系、エンターテインメント系といった既存の枠に収まりきらない異色作、野心作が目立つ。この『しゃばけ』もまた、江戸を舞台に連続殺人事件の謎を追うミステリ仕立てのファンタジーという異色の作品である。そして同時に、この賞の歴代の入賞作が、読む側もまたそれなりの態度で臨まなければならないような本格的な文芸作品揃いであるのに対し、この作品は、ライトノベルのように軽い感覚で読むことができる。そういう意味でもまた異色である。

 主人公は、江戸で有数の大店の17歳になる若だんな。ただし、この若だんな、生まれながらに病弱で、廻船問屋兼薬種問屋の離れになかば幽閉されるように寝起きし、両親はもちろん店中の者から過保護に扱われている。ことに二人の手代が四六時中そばにいて、しつこいくらいにあれこれ世話を焼いてくれる。そしてなぜか、店にはたくさんの妖(あやかし)が棲んでおり、件の二人の手代も実は人の姿に化けた妖怪。若だんなにとっては友だちのような妖怪たちだが、二人の手代をのぞけば、他の者には姿が見えず、その存在さえ知られていない。そしてとある晩、若だんなは、ひょんなことから猟奇殺人事件に巻き込まれる。やがて自らも命を狙われる身となった若だんなは、仲間の妖たちとともにその事件の謎に挑む……。

 しかし物語は、「妖怪」、「猟奇殺人」といった言葉から連想されるおどろおどろしいイメージからはほど遠く、拍子抜けしそうなくらいほのぼのとしている。病弱だが案外芯のしっかりした若だんな、二人の手代をはじめとする様々な妖たち、息子にめっぽう甘い両親、菓子作りの下手な幼馴染みの菓子屋の息子など、一人ひとり癖のあるキャラクターがみな活き活きと描かれていて、それぞれに親しみが持てる。ミステリとしての結構は正直さほど本格的なものではないが、元漫画家のアシスタントだったという畠中の風変わりな経歴ゆえか、彼らの奮闘ぶりにはどこかマンガを読んでいるような面白さがあり、掛け値なしに楽しい。

 この作品がファンタジーとして成り立っているのは、もちろん数多の妖怪が登場するからだが、不思議とこの作品は異世界を描いたものという印象が薄く、様々な妖怪たちの存在も意外にすんなりと受け入れることができる。あるいはそれは、この物語が、人々が妖怪や怪異を(額面どおりにではないにせよ)隣人のような存在として受けとめていた時代の話だからなのかもしれない。

 明治維新を境に、日本の社会の仕組みは大きく様変わりした。日本人は、様々な生活習慣や様式、さらには考え方までをも西洋にならうようになった。それゆえ我々現代人は、明治以前の日本人の暮らしぶりや考え方に思いのほか疎いものである。我々の多くにとって、江戸という時代そのものがある種の異世界なのかもしれず、それゆえ、時代小説は案外ファンタジーと相性が良いのかもしれない。この作品はそんなことも考えさせてくれる。この作品には、江戸の市井や風情もまたありありと描かれている。

 ミステリ、時代小説、ファンタジーという様々なエンターテインメントの要素をうまく取り込み、それをライトノベルタッチの軽い読み物に仕上げた、読みやすく楽しい作品である。普段あまり本に縁のない特に若い層にも、取っ付きやすい作品だろう。

しゃばけしゃばけ
畠中恵

単行本, 新潮社, 2001/12

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畠中恵の『しゃばけ』『ぬしさまへ』『ねこのばば』を読む
この1週間、新潮文庫の『しゃばけ』、『ぬしさまへ』、『ねこのばば』(いずれも畠中恵著、柴田ゆう挿画)

栄枯盛衰・前途洋洋 at 2006-12-09 14:43

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