2006年05月30日

ヘヴンアイズ / デイヴィッド・アーモンド [読書日記]

ヘヴンアイズヘヴンアイズ
デイヴィッド・アーモンド / David Almond
金原瑞人

単行本, 河出書房新社, 2003/06/20

 昨年購入して、以来ずっと放置していたデイヴィッド・アーモンドの『ヘヴンアイズ』を読む。

 デイヴィッド・アーモンドは、イギリスの児童文学(日本ではヤングアダルトに分類される。もっとも佐吉は、このヤングアダルトというジャンルの定義が、つまり従来からあるジュブナイルとどう違うのかが、いまひとつよくわからないのだが……)作家。デビュー作『肩胛骨は翼のなごり』で、イギリスのすぐれた児童文学に与えられるカーネギー賞、ウィットブレッド賞の両賞を受賞し、以来、子どもたちを主人公にした幻想的な作品を発表し続けている。

 佐吉がこの作家を知ったのは、ちょうど一年前、彼の五作目にして当時の最新作『火を喰う者たち』によってだった。1960年代のいわゆるキューバ危機を背景に、一人の繊細な少年が、どこか狂気をたたえた大道芸人との触れあいを通じて体験した、ある奇跡を描いた作品だ。佐吉はこれがひどく気に入り、すぐさま彼のそれ以前の作品も買い求めた(その割にはこうして放置していた作品もあったわけだが… (-_-; )。

 『火を喰う者たち』以前のアーモンドの作品には、必ず幻想の世界の住人が登場する。彼らは子どもたちと触れあい、子どもたちの心の内に何かをもたらし、何かを変えてゆく。それが物語の核となる。現実と幻想とが入り混じった世界を、アーモンドは繊細に美しく描く。そうした物語の結構は、彼の作品すべてに共通していた。

 ところが、『火を喰う者たち』には、そうした幻想の世界の住人がいっさい登場しない。にもかかわらず、『火を喰う者たち』は前作以上に読者の現実と幻想との境界を揺るがし、何気ない日常を描いた場面の一つひとつが、読む者の心に強く響いてくる。この作品の訳者あとがきの中で、金原瑞人はこう云っている。
 『アーモンドの何がそれほど魅力的なんだ、と思っている人には『火を喰うものたち』を勧めておこう。これまでに訳されている四冊ほどには不思議でもなく不気味でもない物語で、ほかの四冊以上にじわじわと切なさがこみあげてくる作品だからだ』
 つまり、アーモンドの物語世界を形作っているのは、必ずしも幻想の世界の住人の存在ばかりではないということだろう。少なくとも佐吉はそう理解した。

 さて、その『火を喰う者たち』からさかのぼる格好で彼の作品を読んだ佐吉。『肩胛骨は翼のなごり』や『ヘヴンアイズ』を読んでの感想を率直に云えば、これらは確かに静謐で美しく、幻想的で面白い作品だった。しかし『火を喰う者たち』を読んだ後では、その印象もどこか色褪せたものに感じられる。それはつまり、佐吉も金原氏の云う『アーモンドの何がそれほど魅力的なんだ、と』感じる嗜好を持つ読者の一人だったということなのかもしれない。

 その傍証というわけではないが、以前からアーモンドの作品が好きだったという人たちの書いたレビューを読むと、むしろ『火を喰う者たち』の方が、それ以前の作品にくらべて評価が低い傾向があるように思える。彼らにしてみれば、「こんなのアーモンドらしくない」といったところだろうか。ちょっと面白い。

 久しぶりに『火を喰う者たち』を読み返してみようかな、と思った。

火を喰う者たち火を喰う者たち
デイヴィッド・アーモンド / David Almond
金原瑞人

単行本, 河出書房新社, 2005/01/14

関連(するかもしれない)記事
火を喰う者たち / デイヴィッド・アーモンド [読書日記]
肩甲骨は翼のなごり / デイヴィッド・アーモンド [読書日記]

関連(するかもしれない)書籍

この記事へのコメント

はじめまして。

佐吉さんのおっしゃる通り、私も『火を喰う者たち』に読みづらさを感じて、何となく積読にしていたクチでした。

けれども先日、この本に最後まで目を通してみて、本当によかったと思っています。

トラックバックをさせていただきましたm(_ _)m

Posted by ふらら at 2006年09月15日 15:23

はじめまして。
私は一番最初に「ヘヴンアイズ」を読みました。
中学2年生の夏休みでした。

読み終わった後、言葉も出てこない程感動している自分に驚きました。

その後、すぐに図書室で「火を喰う者たち」を見つけ読んでみました。けれど、「ヘヴンアイズ」程の感動は得られず、途中で読むのをやめてしまいました。

でも、あなたのブログを見て、もう一度読んでみようと思いました。

中学2年生の頃の私は特に本に興味があったわけではなく、「朝読書」と呼ばれる時間に少しずつ読んでいただけでした。

でも、あれから5年経ち、色々な本達と出会い、物の見方も少し変わり、小説家という夢を持った今の私なら、「火を喰う者たち」を最後まで読めるような気がします。

「図書室で借りて」ではなく、「自分で買って」読んでみようと思います。



Posted by 朱桜 at 2012年01月20日 08:52
朱桜さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

そうですね。こういう云い方は失礼かもしれませんが、『火を喰う者たち』は、中学生くらいだとあまりピンとこないかもしれませんね。上にも書いたように、それまでのアーモンドの作品と違って、幻想の世界の住人も登場しないし、一方で、キューバ危機という当時の社会的背景が大きく関係した作品ですから。

ですが、私は、長く人々の記憶に残るであろう作品、いずれアーモンドの代表作と云われるであろう作品は、この『火を喰う者たち』をおいてほかにないと確信しています。

この作品は、完全に幻想の世界を描くのでなく、現実と幻想との境界を描いているからこそ、我々が普段意識することのないその境界線を強烈に意識させ、なおかつ、根底から揺るがしてくれるのです。多くの読者がそのことに気づかず、「これまでのアーモンド作品と違う」と読み流してしまっているのは、なんとももったいないことだと思います。小説家を目指しているのであれば、ぜひともこの作品の稀有な魅力に気づいていただきたいと思います。

陰ながら、朱桜さんの夢が叶うよう応援しています。

Posted by 佐吉 at 2012年01月25日 01:21

コメントを書く
お名前: [必須]

メールアドレス:

ホームページURL:

コメント: [必須]


この記事へのトラックバックURL

http://blog.seesaa.jp/tb/18613949

※ スパム対策のため、トラックバックは管理人の承認後に表示されます。


この記事へのトラックバック

想像力を駆り立てるための炎~『火を喰う者たち』(その1)
火を喰う者たちデイヴィッド・アーモンド 金原 瑞人 河出書房新社 2005-01-14売り上げランキング : 228175おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools 火喰い男(f..

よんどこロード at 2006-09-15 15:21

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。