2006年08月18日

クライマーズ・ハイ / 横山秀夫 (ドラマ/原作) [読書日記]

クライマーズ・ハイクライマーズ・ハイ
出演 佐藤浩市, 大森南朋, 岸部一徳 他
原作 横山秀夫

DVD, 角川エンタテインメント, 2006/05/12

 皆さんご存知の通り、去る8月15日、小泉首相が靖国神社を参拝した。現職首相の終戦記念日の参拝は、1985年の中曽根首相(当時)の公式参拝以来21年ぶりのことだと、その日、多くの機関が報じていた。1985年といえば、日航ジャンボ機が群馬県御巣鷹山に墜落した年である。中曽根首相の靖国参拝はその未曾有の大惨事の3日後のことだった。

 その大事故の報道をモチーフにした横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』は、2003年に刊行されてベストセラーとなり、昨年暮れNHKでドラマ化もされた。墜落事故の追悼慰霊祭にあたっていた先週末、NHK BS hi でその再放送があり、佐吉はそれを観た。

 物語は、航空機墜落事故の報道を巡る、架空の地方新聞の記者たちの緊張に満ちた1週間を描いた群像劇である。

 その日、北関東新聞の遊軍記者悠木(佐藤浩市)は、同僚安西との谷川岳衝立岩登攀を予定していたが、墜落事故の発生によりそれを中止せざるを得なくなる。事故報道の全権デスクを任された悠木は、様々な思惑が絡み合う組織内での摩擦や軋轢、衝突に翻弄されながらも、地元紙の記者としてこの世界最大の事故と真正面から対峙することを決意する。一方、一人岩山に向かったはずの安西は、なぜか市内で病院に搬送され、植物状態となっていた。安西の様態や彼の家族のことを気にかけつつ、また、息子と良い関係が築けないという普段からの家庭内の問題を抱えつつ、悠木は自らの信じるところに従い、奔走する。

 ドラマはピリピリするような緊張感に満ちていた。主演の佐藤以下、実力派の俳優がずらりと顔を揃え、それぞれに一癖も二癖もあるアクの強いキャラクターを、実に存在感豊かに演じていた。また、元上毛新聞記者という経歴を持つ横山だけに、報道者としての誇りや責任感、地方紙記者の悲哀、組織内で暗躍する人間の狡猾さ、延いては一個の人間としての弱さや葛藤が、緻密に、リアルに、妥協することなく描かれていて、ストーリー自体にも迫力がある。

 しかしながら、終盤に入ると途端に展開が性急になり、物語はいささか陳腐、というか青臭い「泣かせ」に流れてしまう。思わず呆気にとられる。それまでのリアルな描写がまるで嘘のようだ。

 きっと2時間半という枠に収めるため、話を端折ったに違いない。佐吉はそう思った。このドラマはDVDで発売もされているというので、Amazonで原作とあわせてそのカスタマーレビューを見てみた。するとやはり、原作に比べると物足りないという意見がある。自分の目で確かめてみたいと思い、翌日早速原作を買い求め、読んでみた。

 結論から云えば、佐吉は原作に少なからずがっかりした。確かに報道の現場を描いたシーンは臨場感に満ちている。そしてドラマはそれを細部に至るまで忠実に映像化したものだった。しかし、それと平行して描かれるもう一つの主題、つまり悠木が自らの過去に対して抱える屈託や、父としてのあり方に悩む姿は、その道具立ても仕掛けも陳腐、というよりお粗末だ。どこにでも転がっていそうな安易な設定と展開。報道の現場やそこに登場する人物の描写がリアルなだけに、その作り物臭さがことさら鼻につく。もしこれをメインに据えていたら、この作品は三文小説と揶揄されても仕方がなかったのではないか、とさえ思った。

 ドラマには、やはり時間的制約によって端折られた部分があった。しかし、それはほとんど上のパラグラフで云うところの「もう一つの主題」に関する描写であり、それは省いて然るべきシーンだったと思う。むしろそうすることによって、ドラマは原作以上の緊張感を持ち得たのだ。終盤の安っぽい展開は、原作がそうである以上、変えようがなかったのだろう。その点はとても残念だが、ドラマスタッフの原作の「読み」は大いに讃えたい。

 佐吉は、原作は特に他人様にお薦めしたいとは思わないが、ドラマはお薦めしたい。とにかく佐藤浩市がメチャクチャカッコいい。それだけでも一見の価値がある。

クライマーズ・ハイクライマーズ・ハイ
横山秀夫

文庫本, 文藝春秋, 2006/06


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この記事へのコメント

私もドラマ、見ました!
佐藤浩市、かっこよかったですよねー。
そして、ベテラン俳優がずらり。
ひさしぶりに見ごたえのあるドラマを見た気がしました。
(民放の、モデルあがりの女の子がちゃらちゃら出演しているようなドラマを
どうにかしてほしいです)
でも、確かに、あのがっちりとした作りのわりに
最後があまり印象に残ってない…
原作に問題があったのですね。
私は未読なのですが、逆にそれを検証するために
読んでみたい気もします。

Posted by LIN at 2006年08月19日 11:00
LINさんもご覧になりましたか。ホント、あのドラマは佐藤浩市につきますね。あの役をあれだけリアルに演じられそうな俳優が、ちょっと他に思いつかないくらい。また、岸部一徳の演じた社会部長をはじめ、現場の人々それぞれの人物像もリアルでした。

原作については、上はあくまで佐吉個人の見方であって、巷ではむしろ絶賛する声の方が多いようですから、一概につまらないと断言することはできません。佐吉も、少なくとも、それはそれ、これはこれと割り切って読む分には、確実に見るべき部分があったと思います…

なんて訳のわからない説明を聞くより、確かに自分で読んだ方がはっきりするでしょうね。機会があれば、一読されるのも面白いんじゃないかと思います。

Posted by 佐吉 at 2006年08月20日 11:14

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