2007年03月25日

喪失 / カーリン・アルヴテーゲン [読書日記]

喪失喪失
カーリン・アルヴテーゲン / Karin Alvtegen
柳沢由美子

文庫本, 小学館, 2004/12

 新進気鋭のスウェーデンのミステリー作家カーリン・アルヴテーゲンの既刊三冊をまとめて購入。この週末、うち二冊を読んだ。

 アルヴテーゲンは、1998年のデビュー作『罪』で注目を集め、2000年に上梓した第2作『喪失』でグラス・キー賞(ベスト北欧推理小説賞)を受賞、2003年に発表した第3作『裏切り』も好評で、今や「北欧ミステリー界の女王」とさえ呼ばれる存在だそうだ。

 『罪』の主人公ペーターは、経理係の横領によって日本円で二千万もの負債を抱えた零細企業の経営者。幼くして父を亡くし、その後母に疎外されてきた彼は、その心の痛みから自分に自信がもてず、人間関係をうまく築くことができない。さらにここ半年ほど、いつ訪れるともわからないパニック発作の恐怖に悩まされている。ペーターはある日、見知らぬ女から彼女の夫だという会社社長への届け物を頼まれる。が、その中身は足の親指。しかも、その社長ルンドベリの実の妻は三年前に死んでいるという。女の正体をつきとめ、その執拗な嫌がらせをやめさせてほしいと頼むルンドベリに、借金の肩代わりを条件に探偵役を引き受けたペーター。二人の間には友情さえ芽生えるのだが、知らず知らず彼らは女の術中にはまっていく。

 『喪失』の主人公シビラは32歳。頑迷な母の束縛から逃れるため、18歳で裕福な家を捨て、以来ずっと社会のアウトサイダーとして、ホームレスのようにストックホルムの街を彷徨ってきた。ある晩彼女は、成金の中年男を騙し、食事を奢らせホテルの客室をとらせることに成功する。しかし翌朝、その男が死体で発見される。殺人の容疑をかけられた彼女は、さらに続けて起こった猟奇殺人事件の犯人ともみなされ、全国に指名手配される。食べ物も寝場所もなく、わずかな拠り所さえも失い、じりじりと追い詰められてゆくシビラは、極限状態の中、たった一人で事件の真相に挑む決意をする。

 アルヴテーゲンは、『長靴下のピッピ』で知られる児童文学作家アストリット・リンドグレーンの兄の孫。つまり、リンドグレーンは彼女の大叔母にあたる。家族の誰もがものを書き、幼い頃から常に文学が身近にある環境で育った彼女だが、小説を書き始めた直接のきっかけは、仲の良かった兄の死だったという。折しも第2子の臨月を迎えていた彼女は、その悲しみを心の奥に閉じ込めたまま出産と育児に忙殺され、やがて深刻な鬱状態に陥り、パニック発作と診断される。そしてその鬱状態から抜け出すために、彼女は文章を書き始めたのだという。

 そうした実際の心の叫びから生まれた作品ゆえか、彼女の、心に痛みを抱えた人間の内奥の描き方には、鬼気迫る生々しさがある。いずれもミステリーの構えで書かれているが、絶望と狂気の淵に追い詰められ、ある種の諦念とかすかな希望との狭間でもがき苦しむ生身の人間の心理描写こそが、彼女の作品の真骨頂なのだ。

 ちなみに『喪失』については、ユニヴァーサル・ピクチャー・ノルディックがすでに映画権を獲得しているという。もちろん佐吉の勝手な想像だが、ストックホルムの寒々とした街並みを背景に、暗めのモノトーンで描かれた、背筋がぞくぞくするようなサイコサスペンスが、今から目に浮かぶようだ。映画化にも期待したい。

 さ、続けて『裏切り』を読もっかな♪

罪
カーリン・アルヴテーゲン / Karin Alvtegen
柳沢由美子

文庫本, 小学館, 2005/05
裏切り裏切り
カーリン・アルヴテーゲン / Karin Alvtegen
柳沢由美子

文庫本, 小学館, 2006/08/04

関連(するかもしれない)記事
最近の掘り出し物三冊 [読書日記]
恥辱 / カーリン・アルヴテーゲン [書評]
タンゴステップ / ヘニング・マンケル [書評]
目くらましの道 / ヘニング・マンケル [書評]

関連(するかもしれない)書籍

この記事へのコメント


コメントを書く
お名前: [必須]

メールアドレス:

ホームページURL:

コメント: [必須]



この記事へのトラックバック


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。