2007年04月10日

最近の掘り出し物三冊 [読書日記]

 Amazonをのぞくと、どの本(商品)のページにも、そこをのぞいた客がいかにも買いそうな他の関連商品を紹介する項目がある。「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とか「関連商品を見る」だとか。「お客さん、実はこんなのもあるんですが、ついでにおひとついかがでしょ?」 ってなもんである。

 以前はそうした項目にはほとんど注意をはらわなかったのだが、最近の佐吉は、それらのリンクを時折開いてみたりする。どういう心境の変化かはわからない。まんまと彼らの計略にはまっているだけかもしれない。が、そうやって関連商品から関連商品へとリンクを辿っていくと、案外面白い本に出会ったりもするのである。さて、そんなふうにAmazonを渉猟していて見つけた最近の掘り出し物を三冊。

裏切り裏切り
カーリン・アルヴテーゲン / Karin Alvtegen
柳沢由美子

文庫本, 小学館, 2006/08/04

 まずは以前にも紹介したスウェーデンの新進作家カーリン・アルヴテーゲンの『裏切り』。『罪』、『喪失』のわずか二作で「北欧ミステリー界の女王」との名声を得たという彼女の三作目にあたる作品である。

 くだんの異名にもあるとおり、『罪』、『喪失』の二作はミステリー仕立ての作品だった。しかしアルヴテーゲンの作品の魅力は、謎解きの妙よりむしろ、心に傷を負い、絶望と狂気の深淵に追い詰められた人間の内奥の描き方にある。三作目の『裏切り』で彼女は、ついに心理サスペンスの形をとり、夫婦関係のみならずそれぞれの人生そのものの破局へと突き進む男女の心の奥底を、鳥肌が立つような緻密さで描いてみせた。『裏切り』は、まさに全編これアルヴテーゲンの本領発揮ともいうべき作品なのである。

 一見幸福そうな中流家庭に暮らす結婚15年目の夫婦。しかし実は二人の間は冷えきっていた。最初は壊れかけた関係を修復しようと努めていた妻だったが、夫の不倫を知った途端、その思いは激しい憎悪へと変わる。妻は次々と陰湿な復讐を仕掛ける。だが変わりゆく状況の中、ときに、もしかしたらやり直せるかもしれないという微かな希望の光が灯ることがある。自分にまだそんな気持ちが残っていたことへの驚き。関係修復への希望と夫への憎悪との間の葛藤。そしてまた夫にも同じ葛藤があった。そしてそんな2人の間に、恋人を喪ったパラノイアの青年が現れ、事態は思わぬ方向へ展開する……。

目くらましの道 上目くらましの道 上
ヘニング・マンケル / Henning Mankell
柳沢由美子

文庫本, 東京創元社, 2007/02/10

 二冊目は、アルヴテーゲンの作品の関連商品として見つけた、これもまたスウェーデン産のミステリー。へニング・マンケルの『目くらましの道』。同じ刑事を主人公にした警察小説のシリーズものの五作目である。今はこれを読んでいる。これまでの佐吉にはちょっと疎遠なジャンルだが、こいつもなかなか面白い。Amazonのカスタマーレビューを見ると、「自分が31年生きていて250冊以上読んだ小説の中で一番の作品でした」という超弩級の賛辞を贈っている人さえいる。さすがにそれはちょっと誉めすぎじゃないかという気もするが、この作品がぐいぐいページを繰らせる極上のミステリーであることは間違いない。

 ところで、ちょっと話が逸れるが、以前に、カーリン・アルヴテーゲンの大叔母が、『長靴下のピッピ』で知られるアストリット・リンドグレーンだという話をした。スウェーデンは数多くの児童文学の傑作を生み出してきた国であり、児童文学はスウェーデン人が誇りとするものの一つだという。女性ではじめてノーベル文学賞を受賞したセルマ・ラーゲルレーヴもスウェーデンの作家であり、彼女の『ニルスのふしぎな旅』もまた、スウェーデンの国民的児童文学作品の一つである。スウェーデンには、その『ニルスの……』の主人公ニルス・ホルゲルソンの名を冠した児童文学賞がある。

 そしてここからが驚くべき話なのだが、ヘニング・マンケルはなんと、1990年にそのニルス・ホルゲルソン賞を、そして1995年にはアストリット・リンドグレーン賞を受賞しているのである。もちろんいずれも児童文学作品でである。なんて奴だ。根っからのミステリー作家かと思いきや、その対極に位置しようかという児童文学でまで賞を受けているとは。念のために云っておくが、『目くらましの道』は、どろどろぐちゃぐちゃ阿鼻叫喚の殺害シーンや死体の描写も生々しい、連続猟奇殺人事件の犯人を追う話である。間違っても少年探偵などは出てこない。

 それにしても、ホント、なんて器用な奴。こうなったら、このシリーズ、最初から全部読んでやろうかしらん。

ぼくと1ルピーの神様ぼくと1ルピーの神様
ヴィカス・スワラップ / Vikas Swarup
子安亜弥

単行本, ランダムハウス講談社, 2006/09/14

 そして三冊目は、ず〜っと南下してインドの話。インドの現役外交官ヴィカス・スワラップの『ぼくと1ルピーの神様』。

 実はあとで知ったのだが、この作品は、昨年「本の雑誌編集部が選ぶノンジャンルの年間ベスト10」に選ばれ、先月はじめに放送されたNHK BS2の『週刊ブックレビュー』では、女優の木野花が紹介していたらしい(佐吉もその放送を見ていたはずなのだが記憶に残っていない)。佐吉が買ったのは第二版だが、このあいだいつものK書店をのぞいたら、第四版が平積みされていて、帯も北上次郎のコメント入りのものに変わっていた。う〜〜ん……なんだかちょっと悔しい。佐吉が偶然見つけた、日本ではまだほとんど知られていない作品だと思ったのに……。

 ともあれ、『ぼくと1ルピーの神様』は、まずその設定が面白い。ムンバイ(旧ボンベイ)のスラム街に暮らす18歳のウェイター、ラム・ムハンマド・トーマスは、クイズ番組に出場し、みごと全問正解、10億ルピーという史上最高額の賞金を獲得する。けれど賞金の支払いをしぶる番組製作会社は、孤児として育ち、ろくに教育も受けていない彼がすべての問題に答えられるはずがない、不正があったに違いないと彼を訴える。しかし彼の全問正解にはちゃんと理由があった。それらはすべて、彼がこれまでの人生において知りえたことだったのである。

 ラムは、警察の厳しい拷問から彼を救ってくれた女性弁護士に、彼がすべての難問に答えられたわけを、すなわち彼自身の波乱万丈の半生を語り始める。そして彼が語るにつれ、現代のインドが抱えるさまざまな負の側面が浮き彫りにされてゆく。政治腐敗、児童虐待、階級差別、宗教対立、詐欺、暴力、売春、そしてあまりにも過酷な貧困層の生活……。

 しかしこの物語は、純真で正直な少年が、持ち前の明るさで数々の困難を乗り越え……といったお涙頂戴ものなどでは決してない。ラムは、その混沌に満ちた世界の中、自身の機知と機転だけを頼りに、自らの人生を切り拓いてゆく。その姿は、ときに狡猾とも云えるほどしたたかでたくましい。

 インド社会の描写の精緻さもさることながら、この主人公ラムのキャラクターこそがインドという国を象徴しているかのようだ。この作品には、どこかマサラムービーを連想させるところがある。歌あり踊りあり、ロマンスあり、コメディあり、アクションありと、合理的なリアリティなど度外視し、娯楽映画のあらゆる要素をごった煮にしたマサラムービーの、あのわけのわからない圧倒的なパワーに似たものが、この作品にも感じられる。あるいはそれは、いずれもがとことんインド的な作品だということなのかもしれない。

 以上、馬鹿みたいに長くなっちゃったけど、例によって書評の下書きを兼ねた今日の読書日記でした。ここまでつきあってくださった皆さん、どうもありがとうございました。

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