2007年04月22日

裁判官の爆笑お言葉集 / 長嶺超輝 [読書日記]

裁判官の爆笑お言葉集裁判官の爆笑お言葉集
長嶺超輝

新書, 幻冬舎, 2007/03

 前回の記事に続いて裁判ネタの本をもう1冊。こちらは新書で、長嶺超輝の『裁判官の爆笑お言葉集』。売れているらしく、佐吉がいつも立ち寄るS新都心のK書店では、入口近くのワゴンに大量に平積みされていた。

 広い意味ではいずれも裁判の傍聴記なのだが、先の記事で体験記のようだと評した『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』とは対照的に、こちらは、裁判における裁判官の印象的な一言を切り取り、それぞれにコラム形式の解説を加えた裁判官語録集である。裁判官に焦点を絞り、彼らの裁量や、判決文には表せない正直な心情を、それぞれの発言に集約させたものである。

 著者の長嶺は、法学部を卒業後、弁護士を志すも司法試験に7度失敗、やむなくライターに身を転じたという経歴の持ち主である。しかしそれだけに、長嶺は日本の司法の現状にも詳しく、本書では民主主義国家における裁判のあり方を考察しつつ、その杓子定規な制度の中にふと垣間見る、裁判官の生身の人間としての一面に目を向けている。タイトルにこそ「爆笑」の文字があるが、本書で紹介されている「お言葉」は、必ずしも笑い飛ばしておしまいというものばかりではない。

 『死刑はやむを得ないが、私としては、君には出来るだけ長く生きてもらいたい』とは、前橋での「スナック乱射事件」で、一般市民を含む4人を射殺した暴力団幹部への死刑判決に添えた一言。決して被告人に対する温情を示すものではなく、そうして遺族に謝罪を続けていってほしいという願いを込めた言葉である。『暴走族は、暴力団の少年部だ。犬のうんこですら肥料になるのに、君たちは何の役にも立たない産業廃棄物以下じゃないか』 裁判官の口からこんな台詞が飛び出すとは意外だが、この発言に大きく頷く人も少なくないだろう。『変態を通り越して、ど変態だ。普通の父親では絶対に考えられない、人間失格の行為。娘の将来の傷をどうするのか』 どんな事件の被告人に対して発せられた言葉かは、ここではあえて記さない。

 アプローチの仕方は対照的だが、『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』にせよ、『裁判官の爆笑お言葉集』にせよ、そこに描かれているのは、「白」か「黒」という法制度における二分法では捉えきれない、さまざまな人々の人生の機微、そしてそれらが織り成す現代社会のありようである。もちろんそれは微視的なものだが、いずれも単に読み物として面白いというだけではない、決して看過することのできない問いかけのようなものを、読む者の胸に残してゆく。

 調べてみると、他にもこうした裁判傍聴記が何冊かあるらしい。そしてその多くは、深刻な社会派ドキュメンタリーではなく、云わば人間ウォッチングとしての傍聴記である。そうした野次馬的な姿勢に対して、不謹慎だ、被害者や遺族の気持ちを考えているのか、と憤慨する向きがあるのも理解できるが、これらは決して裁判の当事者たちを笑いのネタとしてもてあそぼうというものではない。敢えて云えば、むしろこうして距離を置いて見るからこそ見えてくる部分もあるだろう。佐吉はこれらの傍聴記を読んで、いずれまた他の傍聴記も読んでみたいと思った。いや、それ以上に、実際に裁判所に足を運んで裁判を傍聴してみたいと思った。

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