![]() | キトキト! 吉田康弘 単行本, メディアファクトリー, 2007/03 Amazon | |
著者の吉田康弘は、1979年生まれ、現在27歳の新進の映画監督である。井筒和幸に師事し、今年(2007年)、自ら脚本を手がけた本書と同名の映画で監督としてデビューした。本書は、その映画の製作と合わせて書かれた、彼の初の小説である。
主人公優介は18歳。気丈でやたらとパワフルな母親と、今どき珍しいスケ番の姉と共に、地方の小都市に暮らしていたが、3年前に姉が家出、彼もまたある事件をきっかけに高校を中退する。
以来優介は、暴走族に加わり無為な日々を送っていたが、やがてそんな生活に疑問を抱くようになり、気障りな母と「なーんつまらんこの町」から逃げるようにして東京へ向かう。何の当てもないまま辿り着いた新宿で、優介はたまたま見かけたホストクラブの看板に惹かれ、ホストの仕事を始めるのだが……。
皆さんご存知だろうが、『東京タワー』という、先年バカみたいに売れたリリー・フランキーの自伝的小説がある。佐吉はドラマ化されたそれをちらっと見ただけで原作を読んでいないので、それについて多くを語る資格はないが、どこにでもありそうな、また誰にでも書けそうなこの作品が売れた理由の一つに、あまりにもベタで、あまりにもクサいがゆえ、これまで誰も(少なくともプロの小説家は)書かなかった話をあえて書いたから、ということは挙げられるだろう。
『キトキト!』は、その『東京タワー』に青春ドタバタコメディ風味を加味したような作品である。いや、もっと有り体に『東京タワー』の二番煎じと云ってもいい。この作品もやはり、設定、筋書き、泣かせどころやその泣かせ方にいたるまで、あきれるほどありきたりだ。加えて吉田の文章はお世辞にも巧いとは云えない。読んでいて思わず赤ペンで添削してやりたくなるところさえ、いくつもあった。
さて、そこまでボロクソに云っておきながら、なぜ佐吉はこの本を買い、最後まで読み通したのか。その最たる理由は、作品の舞台が富山県高岡市だったことである。
佐吉の細君康文(こうぶん)の実家は高岡にある。先の大型連休に、佐吉と康文はその高岡の実家を訪ねた。康文は連日、地元の知己との旧交をあたためていたが、これといってすることのない佐吉は、義母や義兄と世間話をしたり、近所の書店をのぞいたりして、持て余した時間をつぶしていた。
数年前にできたその店は、CDやビデオのレンタルショップが併設された、よくある郊外型の書店なのだが、広く明るく、通路もゆったりしていて、(こう云っては失礼だが)思いのほか品揃えがいい。文芸書にしても専門書にしても、佐吉がいつも立ち寄るさ○たま新都心の紀○国屋書店より、はるかにバリエーションが豊富である。置いてある本も総じてきれいだ。
と、その店の入口近くに据えられた島に、この本がどど〜んと山積み、派手なPOPと共にディスプレイされていたのである。手に取ってページをめくってみると、会話は全編これ富山弁。そして、高岡大仏、雨晴海岸、高岡駅周辺、伏木の工業地区など、高岡に何度も足を運んでいる佐吉にはもうすっかりお馴染みの風景が、そこかしこに現れてくる。
ふむふむ。確かに、商店街を歩いていると突然現れるあの高岡大仏が、奈良、鎌倉のそれと並ぶ日本三大仏の一つとは、佐吉もいまだに信じがたい。雨晴海岸は富山湾越しに立山連峰が望める景勝地として知られているが、実際には立山が見える日など年にいく日もなく、佐吉もやはりそこで立山を拝んだことはない。「市の郊外にできた大型ショッピングセンター」というのは、きっと「イー○ン」に違いない。活気を失った駅前の商店街、伏木の工業地区の煙突群が吐き出す煙、そしてその周辺に漂うなんとも云いようのない臭い。一つひとつの場面が脳裡にありありと浮かんでくる。
単に「高岡を知っている」というだけの佐吉でさえそうなのだから、高岡に暮らす人たちがこの作品に抱くだろう親近感は、想像するに余りある。かの書店での破格の厚遇も、地元を舞台にした作品なればこそのものだろう。佐吉は、親近感を覚えると同時に、そうした場面に出くわしたことがなんだか妙にうれしくて、なかばその記念として、山と積まれたその本の一冊を買い求めた、というわけなのである。
佐吉に続いてこれを読んだ康文によると、作中、主人公が中退する高校は、実に康文の母校なのだという。映画のロケもやはりそこで行われたと聞いた。そしてさらに康文は、そこに登場する火葬場は、数年前、義父を荼毘に付したその火葬場だと云うのだが、その点に関しては、夫婦間での見解の一致はみられていない。
ともあれ、おそらくこの作品が小説として高く評価されることはないだろう。しかしそこには、虚飾のないストレートなメッセージの力強さがある。舞台が高岡であることからくる親近感が、佐吉にとってのそれを加速させたことは云うまでもない。ちなみにタイトルの「キトキト!」とは、富山弁で「新鮮である」、「活きがいい」という意味である。映画では、「母ちゃん」役の大竹しのぶの熱演が好評らしい。機会があれば、ぜひそれも観てみたい。




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