2007年07月03日

あらすじで読む『松岡正剛 千夜千冊』? [雑記帖]

ちょっと本気な千夜千冊虎の巻−読書術免許皆伝ちょっと本気な千夜千冊虎の巻−読書術免許皆伝
松岡正剛

単行本, 求龍堂, 2007/06

 昨年、百科事典とも見紛う前人未到の大部の書評集『松岡正剛 千夜千冊』(全7巻+特別巻)を刊行し、今なおウェブ上でその驚異的な連載を続けている松岡正剛の新刊が、先日出版された。『ちょっと本気な千夜千冊虎の巻 読書術免許皆伝』である。『千夜千冊』についての文字どおりのガイドブックであると同時に、松岡が自身の読書論を語った本である。

 先週末、仕事帰りに書店でそれを手にとって眺めてみた(あとで他のと一緒にネットで注文すればいいや、と思ったので買わなかったけど)。すると、中身とは関係のない、云わばどうでもいいところで、一つ気になることがあった。それはその帯に書かれていた宣伝文句である。帯には「人生を変える読書術 この『一冊』で『千冊』が読める」とあった。佐吉はそれに違和感を覚えたのだった。

 まず前半の「人生を変える読書術」は、斎藤某あたりが書きそうな自己啓発本のサブタイトルのようである。また後半の「この『一冊』で『千冊』が読める」は、「この『虎の巻一冊』で『千夜千冊』が読める(ようになる)」という意味だとしてもなお、あらすじだけ読んで古今の名著を読んだことにしてしまおうという、いわゆる「あらすじ本」のキャッチコピーを思わせる。どちらにしても、およそ松岡の『千夜千冊』に関心を寄せる(潜在的)読者に響く惹句とは思えない。

 むろん『千夜千冊』は名著千冊の「あらすじ本」ではないし、そのガイドブックたるこの『虎の巻』も『千夜千冊』の「あらすじ本」ではない、というか、そんなものはあり得ない。だいたい『千夜千冊』という営為自体が、「あらすじだけ読んで読んだことにしてしまおう」などという考え方の対極に位置するものではないか。それゆえ佐吉は、あの宣伝文句はどこか間違っているんじゃないか、と思ったのである。

 ところで話は逸れるが、「あらすじ本」に絡んで一つ思い出したことがある。それは、先日読んだ呉智英の『読書家の新技術』(1982)にあった一節である。呉は、彼がまだ30歳代の頃に上梓したこの読書論の中で、新聞の読書欄などに掲載される書評を、「導入」、「本論」、「しめくくり」の3つに分解したうえで、こう読めとアドバイスする。
 書評読みが目を光らすべきなのは、「導入」である。ここで、その本を読むべきかどうかの大略が決まる。本論の部分は、むしろ、その本の要約(ダイジェスト)と考える。そして導入部分を見てその本は読む必要がないと判断した場合に、逆に熱心に読んで要約を吸収し、現物を読まずにすますようにしたほうがいい。しめくくりの部分は、導入の部分を確かめる補助と考える。
 佐吉はこの一節に、ちょっと目から鱗が落ちる思いがした。そうだよ。読む必要がない本についてこそ、それを実際に読む手間を省くためにあらすじが書かれ、読まれるべきじゃないか。名著でも必読書でもなく、松岡が『千夜千冊』に取り上げたりもしない本。たとえば1年も経てば忘れ去られてしまうようなベストセラーや文学賞受賞作。むしろそういうのこそ、あらすじや要約だけを読んで、読んだことにしてしまいたいものだ。

 ホントにどこか出してくれないかなあ。題して『あらすじで読む、ちょっとだけ気になるベストセラーと話題作』。少なくとも佐吉は買う。年刊なら毎年買う。そして佐吉に代わって愚作や駄本を読んでくれた著者(たち)に感謝する。ひょっとするとその潜在的需要は、名著や必読書についてのそれより大きいかもしれない。

 閑話休題。『千夜千冊虎の巻』である。その後、家に戻ったところではたと気が付いた。ひょっとしてあの宣伝文句はパロディなんじゃないか、と。そもそもかの『虎の巻』は、『千夜千冊』の入門書である。『千夜千冊』に関心はあっても、その分厚さに思わず尻込みしてしまうような(つまり佐吉のような)生半可な読書人に向けて、その敷居を低くするために書かれたものである。とすれば、むしろそうした通俗的なフレーズこそがその宣伝文句にふさわしく、それゆえ担当者も確信犯的にそんな惹句を選んだのではないか、つまりあれは一種のジョークなのではないか、と思ったのである。もちろん真相は知る由もないが、ひとまず佐吉はそんなふうにして納得したのだった。

 ああ、それにつけても『千夜千冊』である。むろん関心はある。ウェブ上で読むこともできるわけだが、書籍化に際して、その50パーセント以上を改稿したと聞けば食指が動く。ただ単純に、その背表紙が自分の書棚にどど〜んと並んでいるところを見てみたい、という気持ちもある。しかし全巻セットで約10万というお値段には、違った意味で腰が引けてしまう。その執筆、編集に要する労力と、予想される購買者数とを考えれば、それも仕方がないとは思うのだが……。

 まあ、ひとまずはこの『虎の巻』を買って読んで、『千夜千冊』のサイトをのぞいて、いずれその古本が出回るようになるのを、気長に待つしかないか。

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