2005年04月24日

一日江戸人 / 杉浦日向子 [書評]

一日江戸人一日江戸人
杉浦日向子

文庫本, 新潮社, 2005/03

 肩の凝らない軽妙なおしゃべりやエッセイ、そして楽しいイラストで、江戸庶民のさまざまな文化や風習を紹介する江戸風俗研究家、杉浦日向子。本書もまた彼女ならではの、楽しく気軽に読める江戸の超実用的(?)ガイドブックの一冊である。

 ちょうど、かつてNHKで放送された『お江戸でござる』での解説のように、イラストをふんだんに盛り込んだコラムの形で、江戸の人びとの暮らしや嗜好を、一つひとつ面白おかしく紹介してゆく。江戸の市井の人びと、奇人変人、色男や美女を紹介した入門編。長屋での生活や夏冬の過ごし方を眺めた初級編。中級編では酒や食にまつわる話に相撲話、そして今でも江戸の気分を味わえる東京の散歩コースを紹介し、上級編では当時の庶民の旅の様子や、春画、意匠、洒落などを考察する。

 ここに取り上げられた話題のほとんどが、映画やドラマ、時代小説などではなかなか知り得ない、というより、おそらくは取るに足りないこととしてうっちゃられてきたのであろう、庶民の日常のありふれた話である。しかし現代の我々にとっては、むしろそれだけに、彼らのおおらかな暮らしぶりが活き活きと浮かんできて、理屈抜きに楽しい。

 怠け者で商売嫌い。その日その日を食いつないでさえいればどうにかなる。そんな彼らだから、ろくに定職にも就かず、毎日が日曜日の気ままなその日暮らし。こんなふうに云うと、現代なら人生の落伍者と誹りを受けそうだが、江戸っ子にはそれが当たり前。もともと楽天的な彼らは少しも卑屈になることなく、懐が寒ければ寒いなりに人生を楽しむ術を知っていた。

 奢った生き方を気障と嫌い、他愛のないことを面白がり、自分の信ずるがまま、軽やかに人生を楽しむ江戸人気質。一方、現代の世の中では、一昔前に「清貧」という言葉が流行り、今もまた少なからぬ人がスローライフに憧れ、「頑張りたくない」とことさら主張しなければならないように、そうした生き方でさえ、苦労してようやく手に入れるべきものになっているように思える。本書を読んでいると、そんなふうにしゃっちょこばらず、至極当たり前にそんな生き方を実践していた彼らが、なんだかうらやましく思えてくる。たまにはすとんと肩の力を抜いて、一日のんびり江戸人気分に浸ってみるのも悪くない。

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