2005年03月11日

若かった日々 / レベッカ・ブラウン [書評]

若かった日々若かった日々
レベッカ・ブラウン / Rebecca Brown
柴田元幸

単行本, マガジンハウス, 2004/10/21

 レベッカ・ブラウンの自伝的連作短編集。レベッカ・ブラウンの文章は、その言葉も文体もシンプルでストレートだ。気負った言葉で語気を強めたり、意外な言い回しで読者の意表をついたりということをしない。しかしレベッカ・ブラウンは、そうした文章によって、人間の心の奥深い部分をくっきりと浮かび上がらせる作家である。

 誰もが幼い頃には今とは違った世界を見ていた。この作品は、彼女の幼年時代から思春期を経て、成人し両親を亡くすまでのさまざまな体験を描き、それらを通して彼女自身の目に写った世界を描いている。それは読者自身がじかに体験しているかのようにリアルで、ときに恐ろしいまでに鮮明だ。そしてその視線の奥に、過ぎ去った日々を懐かしむのでなく、むしろ、現在の自分を見つめ直す視線が感じられる。

 この作品の一つの主題は、家族、特に父親との関係である。彼女の父は、思い通りに生きられなかった人生に負い目を感じながら、自分に対しても家族に対しても、それを認めることができずにいる。彼自身、良き父であろうとし、家族もまたそうあってほしいと願うのだが、その感情はいつもすれ違ってしまう。そうして彼女は、やがて父親に冷ややかな視線を向けるようになる。

 しかしそれは、それでも断ち切ることのできない父への愛情と、それゆえの絶望的な期待の裏返しでもある。両親を失った後、彼女は、そういう生き方しかできなかった父を、そして母を、二人に対するさまざまな気持ちを内包したまま、認め、受け容れてゆく。その語り口は真摯で清々しい。

 また、この作品が印象的に提示するもう一つの主題が、思春期を迎えた彼女の同性愛への目覚めである。自意識の芽生えとともに生じるステレオタイプな生き方への反発や、同世代の女の子たちに感じる違和感。そうした漠然とした疑問や不安が、年上の同性への憧れを通して、自分は何者なのか、どう生きてゆけばよいのかという一つの答えに昇華してゆく過程が、幻想的に、そして鮮烈に描かれている。

 この物語は、自身の「若かった日々」を見つめ直すことによって、自分の中の矛盾やアンビバレントな気持ちをありのままに受け容れ、それらを抱えたまま、この世界でどう生きてゆくかを力強く表明したものと受け取ることもできるだろう。原題の"The End of Youth"には、その終端に立って一つの区切りをつけようとしている響きがある。繊細で鮮烈で、そして壮絶な作品である。

The End of YouthThe End of Youth
Rebecca Brown

ペーパーバック, City Lights Foundation, 2003/05


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