2005年03月05日

壬生義士伝 / 浅田次郎 [書評]

壬生義士伝 上壬生義士伝 上
浅田次郎
単行本, 文藝春秋, 2000/04

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 主人公吉村貫一郎は、無名だが実在の新選組隊士。南部盛岡藩を脱藩し、新選組に入隊、後に同藩から切腹を命じられたというのも史実らしい。が、詳しい記録は残されていない。そのわずかな史実から、これだけの物語を創出した浅田の構想力にまず驚かされる。

 物語は、それから約半世紀の後、新聞記者と思しき人物が貫一郎を知る人々を訪ね歩き、聞き書きをする、あるいは彼らからの手紙を読むという形で語られる。ただし、それでいて小説らしい修辞が随所に散りばめられ、聞き書きや手紙として読むにはやや饒舌すぎると思えるところもある。また、話はとてもゆっくりとした足取りで彼に近づいてゆく。そのため、最初のうちはどう読んだら良いのか多少戸惑う。しかしそれらを通じて、まさに遠い記憶を辿るように、忠義や政治的信念のためでなく、ひたすら家族のために人を斬り続けた貫一郎という人物が、少しずつその輪郭をあらわにしてゆく。複数の語り手にそれぞれの視点で語らせることによって、ちょうど物体が様々な角度から見ることで立体的に見えるように、それはやがて読者の眼前にくっきりと等身大の像を結ぶ。

 何のために生きるべきかと絶えず自らに問いかけ、その答えを探し続けた貫一郎。家族愛とか武士道とか既存の言葉でくくるのがはばかられるほど、彼は真摯に問いかけ、一片のいつわりもない自らの内なる声に耳を傾け、それを貫こうとする。彼の置かれた境遇、彼を取り巻く時代背景のすべてが、そんな彼にとって逆風だったと言ってもいい。しかし、それでもなお頑ななまでに、彼はその声に忠実であり続ける。

 筆者は浅田の他の作品を読んでいない。しかし、泣かせる話が彼の持ち味だとは聞いている。そのための技巧に長けているという話も聞く。たしかに、この作品にも、そういった仕掛けが透けて見える部分がないでもない。が、それとわかっていても、やはり押しきられ、泣かされてしまう。人間の最も崇高な部分を見る思いがし、それを見つめることはこんなにも悲しいのかと思う。何度でも読み返すことができ、そのたびに泣かされる作品だろう。

 ちなみに、この聞き手が誰なのかは、結局最後まで明かされない。新選組三部作の著者子母澤寛だとする見方もあるし、単に一記者として片付けてしまうこともできる。あるいは、読者がそこに自身を置いて読むべきなのかもしれない。だが一方で、彼と貫一郎との関連を匂わせた部分もある。それが誰なのかを想像しながら読むのもまた一興かもしれない。

壬生義士伝 下壬生義士伝 下
浅田次郎
単行本, 文藝春秋, 2000/04

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