2008年03月28日

自分の体で実験したい-命がけの科学者列伝 / レスリー・デンディ他 [書評]

自分の体で実験したい−命がけの科学者列伝自分の体で実験したい−命がけの科学者列伝
レスリー・デンディ, メル・ボーリング
梶山あゆみ

単行本, 紀伊國屋書店, 2007/02

 あるいはカバー(ジャケット)のイラストから、自作の翼で空を飛べると信じ、高い崖や塔の上から飛び降りたタワージャンパーたちのように、自説を過信するあまり無謀な実験を試みたトンデモ科学者の話かと思う人もあるかもしれない。が、そうではない。本書は、ときに自らの生命にさえかかわる危険な実験に挑むことによって、新たな知見を拓いた科学者たちの逸話を綴った、いたって真面目な科学系の読み物である。原題は “Guinea Pig Scientists(モルモット科学者たち)”。もともとは青少年向けに書かれたもので、2006年に全米科学教師会主催の「優れた子ども向け一般科学書に贈られる賞」を受賞している。

 本書には、18世紀から現代にかけて、文字どおり自分の身体で実験をした科学者たちのエピソード10例が紹介されている。人間はどれだけの高温に耐えられるかを探ろうと、100度を超える室内に身を置いたジョージ・フォーダイス。消化の仕組みを調べるため、食物を入れた亜麻布の袋や木の筒を次々に飲み込んだラザロ・スパランツァーニ。ペルーいぼ病の謎を解明すべく、自ら病原菌に感染したダニエル・カリオン……。

 彼らの中には、そうした実験によってノーベル賞を受賞した人もいれば、あえなく命を落とした人もいる。しかしここに紹介された事例は、そのいずれもが近代科学史に偉大な足跡を残した実験である。長年放射能に身をさらしながら、ラジウムを発見し、放射線療法の礎を築いたキュリー夫妻の話も収められている。真理を探究するため、あるいは病気に苦しむ人々を救うため、自らを犠牲にすることも厭わなかった彼らの、科学者として、また人間としての気高さに、読者の誰もが心を打たれずにはいられないだろう。

 しかし云うまでもなく、科学史にその名を深く刻んでいるのは彼らだけではない。自分の身体で実験しなかった人たちの中にも、探究心や人類愛にあふれ、偉大な業績を残した科学者は大勢いる。そしてそうした科学者たちについても数々の評伝が書かれ、それらもまた多くの読者に感銘を与えてきた。本書は決して、彼ら「モルモット科学者」たちが、人間性においてことさら秀でていたと云おうとしているのではない。「自分の身体で実験した科学者たち」という括りによって、彼らの崇高さを読者に強く印象づけることのほかに、本書にはもうひとつ重要な意義がある。

 あくまで評者個人の読書体験を拠り所に云うのだが、一般向け、とりわけ青少年向けに書かれた科学者の伝記は、なにより彼らの人物像を伝えることに重きを置くものである。それゆえ彼らの人となりや生い立ちを伝えることには多くの頁を費やすものの、研究の内容や実験手法については通り一遍の説明にとどまっていることも珍しくない。いきなり学術用語や難解な理論を持ち出されても、素人や若年の読者は戸惑うばかりだろうし、必ずしもそうした内容を理解しなければ彼らの人物像が掴めないというものでもない。科学書としてはともかく、伝記としてはそれで充分なのである。

 然るに本書は、ほかでもない彼らのとった実験手法にスポットを当てている。それぞれの科学者の人間性は、彼らの実験手法にこそもっとも色濃く表れ、まさにその実験の現場で数々のドラマが演じられている。本書は、そのように自然科学自体がひどく人間くさい営みであることを示し、そうすることによって、科学者たちの姿勢や生き方だけでなく、自然科学そのものにも読者の関心を向けさせている。そうした側面もまた、本書について特筆すべき点だろう。

 本書に紹介された事例は、いずれも平易な文章で書かれていて、専門的な知識がなくても充分にその内容が理解できる。それぞれの物語を、ことさらドラマチックに描くのでなく、いかにも科学系の読み物らしい淡々とした語り口で伝えている点にも好感が持てる。大人にも子どもにもお薦めしたい良書である。

Guinea Pig Scientists: Bold Self-experimenters In Science And MedicineGuinea Pig Scientists: Bold Self-experimenters In Science And Medicine
Leslie A. Dendy, Mel Boring, C. B. Mordan

ハードカバー, Henry Holth & Co, 2005/06


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