2005年11月10日

PAY DAY!!! / 山田詠美 [書評]

PAY DAY!!!PAY DAY!!!
山田詠美

文庫本, 新潮社, 2005/07

 山田詠美の作品はとてもわかりやすい。この作品は何を語っているのか、などと問うまでもなく、それが何であるのかを山田自身がすべて作品の中で語っている。変にかまえた云い方はせず、それでいて印象的な会話やフレーズがふんだんに散りばめられ、それらがじかに読者の心に響いてくる。読者はただ彼女の紡ぎ出す言葉に身を任せて読み進めれば良い。それだけで彼女が云おうとしていることはきちんと伝わってくる。山田詠美の作品は真摯で率直で、そして雄弁である。

 双子の兄妹ハーモニーとロビンは、両親と共にニューヨークに暮らしていた。しかし彼らが15歳のときに両親が離婚、兄ハーモニーは父親に付いて彼の故郷である南部の田舎に移り、妹ロビンは母親と一緒にニューヨークに残る。そしてその後、2001年9月11日の同時多発テロによって母親は行方不明となり、一人残されたロビンもやむなく父のもとに身を寄せることになる。

 一人ひとりの登場人物が活き活きと描かれていて、それぞれに魅力的である。物語世界が冒頭からありありと眼前に浮かんでくる。身に降りかかる出来事を正面から受け止めては思い悩む不器用な兄。現実的で一見何事にも物怖じしないように見えるが、内心は今の自分にもどかしさを感じている妹。そして家族の支えにならなければと常に気丈にふるまう実直な父。アル中だがどこか憎めないところがあり、兄妹の良き相談相手でもある伯父や、優しく敬虔な祖母を交え、そこで再び家族三人の生活が始まる。

 物語は、兄妹がそれぞれの恋愛やさまざまな出来事を通して成長し、同時に母の死を受け入れ、そうすることによって家族の絆を深めていく様子を丹念に描いてゆく。これが一人の主人公の内省を延々と描いたものであれば辟易してしまいそうなところだが、この作品は、兄と妹それぞれの視点で綴られた章を交互に配し、対照的な二人がそれぞれに自己を見つめ、同時に鏡像としての互いを見つめる様子を描いている。そのため二人の視線には、自身から適度に距離を置く冷静さと他者への思いやりが感じられ、そのことがこの作品をより説得力のあるものにしている。

 本当は誰もが不安や心細さを抱え、それを誰かに受け止めてほしいと願っている。そうしたありのままの弱い自分を認めることによって、人はその分強くなれる。家族が互いに心を開き、絆を確かめ合う様子が清々しく、また、悩み戸惑いながらも確実に大人への階段を上ってゆく兄妹の姿がみずみずしい。

 ただし大人の読者には、この作品は少々くどいと感じられるかもしれない。文章の饒舌さゆえか、あるいはやや一本調子な展開のせいか、読み進めるにつれ次第に飽きてくるのは否めない。終盤になると、芝居めいたクサい台詞がやや鼻に付くようにさえ感じられてしまう。個々の場面での心理描写が印象的なだけに、この冗長さが惜しまれる。

 とは云え、見方を変えれば、それは、それだけティーンエイジャーの抱える悩みや不安と真摯に向き合っているということなのかもしれない。この作品には、思春期のそうした感情を、細かな機微までおろそかにせず、真正面からありのままに描こうとする誠実さが感じられる。ハーモニーとロビンが母の死を乗り越え成長していく姿には、ティーンエイジャーならずとも共感を覚えるだろう。件の冗長さによるマイナス分を差し引いても、その読後感は爽やかである。とりわけ彼らと同年代の若い読者には、強く印象に残る一冊に違いない。

PAY DAY!!!PAY DAY!!!
山田詠美

単行本, 新潮社, 2003/3/25


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