![]() | 女神記 桐野夏生 単行本, 角川グループパブリッシング, 2008/11/29 |
世界各地の神話をいまに語りなおそうという「新・世界の神話」プロジェクトに、いよいよ日本の神話が登場した。シリーズの執筆陣に名を連ねている、マーガレット・アトウッド、デイヴィッド・グロスマン、オルハン・パムクといった海外の錚々たる現代作家に伍して、世界に向けて新たな日本の神話を紡ぎだす我が国の語り部は、人気と実力を兼ね備えた当代屈指のストーリーテラー、桐野夏生である。
古事記に伝えられる日本神話では、イザナキとイザナミとが目合(まぐわ)い、日本の国土とさまざまな神々を産み出す。けれどイザナミは、火の神カグツチを産んだ際に負った火傷がもとで死んでしまう。イザナキは悲しみに打ちひしがれ、イザナミを連れ戻そうと黄泉(よみ)の国におもむくが、その変わり果てた姿を見ると、恐れおののいて地上に逃げかえり、黄泉の国と現世とをつなぐ黄泉比良坂(よもつひらさか)を大岩で塞いでしまう。冥界に閉じ込められたイザナミが、「おまえの国の人間を一日に千人殺してやる」と呪いの言葉を投げつけると、イザナキは「ならば私は一日に千五百の産屋を建てよう」と云い返し、両者は決別する。『女神記』は、こうして神話の表舞台を去り、黄泉の国の女神となったイザナミの物語である。続きを読む