2008年04月07日

納棺夫日記 増補改訂版 / 青木新門 [書評]

納棺夫日記 増補改訂版納棺夫日記 増補改訂版
青木新門
文庫本, 文藝春秋, 1996/07

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 本書は、富山県で葬儀社に勤め、遺体を拭き清め棺に納める仕事に就いていた著者が、その「納棺夫」としての日々と、それを通して思い巡らせた生と死についての哲学的論考を、澄明かつ力強い文章で綴った一冊である。本編は3つの章から成っており、もともと地方出版社から刊行されたものを文庫化した本書には、それに加えて「『納棺夫日記』を著して」という後日談が収められている。

 著者の青木新門はかつて、東京の大学を中退し、故郷の富山でスナックを経営するかたわら詩や小説を書いていた。その頃たまたま店に立ち寄った作家の吉村昭に見出され、彼が編集委員を務める同人誌に小説を発表し、評判を得たこともあった。しかし、ならばと色気を出して書いた2作目以降は惨憺たる出来で作家になる目処は立たず、やがて経営していたスナックも倒産する。借金に追われ、夫婦喧嘩が絶えなくなり、それでもなお原稿用紙に向かい続ける夫に、生まれたばかりの娘のドライミルクを買う金もないと、妻は新聞を投げつける。床に落ちたその新聞にあった求人広告が、著者が「納棺夫」となるきっかけだった。どんな仕事なのかもわからぬまま、青木はその求人に応募した。続きを読む


2008年02月04日

家守綺譚 / 梨木香歩 [書評]

家守綺譚家守綺譚
梨木香歩
単行本, 新潮社, 2004/01

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 「文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる」駆け出しの物書き綿貫征四郎は、若くして亡くなった学友高堂の実家に、ひとり家守として起臥している。時代はおよそ百年前の明治の末、場所は登場する地名から京都周辺と察せられるが、いずれもはっきりとは示されていない。

 とある嵐の晩、征四郎が布団を引っかぶって寝ようとすると、床の間の掛け軸から何やら音が聞こえてくる。
 布団から頭だけそろりと出して、床の間を見ると、掛け軸の中のサギが慌てて脇へ逃げ出す様子、いつの間にか掛け軸の中の風景は雨、その向こうからボートが一艘近づいてくる。漕ぎ手はまだ若い……高堂であった。近づいてきた。
 ――どうした高堂。
 私は思わず声をかけた。
 ――逝ってしまったのではなかったのか。
 ――なに、雨に紛れて漕いできたのだ。
 高堂は、こともなげに云う。
 のみならず高堂は、征四郎に「庭のサルスベリの木がおまえに懸想している」と告げ、征四郎は征四郎で、その言葉に「実は思い当たるところがある」と得心する。そうして「家守」征四郎の「綺譚」は始まる。河童、仔竜、人魚、小鬼、桜鬼……。さまざまな怪異が、まるで季節の風物がごとく、征四郎の周辺に現れては消えてゆく。続きを読む


2006年05月26日

しゃばけ / 畠中恵 [書評]

しゃばけしゃばけ
畠中恵
文庫本, 新潮社, 2004/03

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 2001年度の第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。日本ファンタジーノベル大賞は、多くの才気あふれる作家を発掘してきたことで知られ、その受賞作には、純文学系、エンターテインメント系といった既存の枠に収まりきらない異色作、野心作が目立つ。この『しゃばけ』もまた、江戸を舞台に連続殺人事件の謎を追うミステリ仕立てのファンタジーという異色の作品である。そして同時に、この賞の歴代の入賞作が、読む側もまたそれなりの態度で臨まなければならないような本格的な文芸作品揃いであるのに対し、この作品は、ライトノベルのように軽い感覚で読むことができる。そういう意味でもまた異色である。

 主人公は、江戸で有数の大店の17歳になる若だんな。ただし、この若だんな、生まれながらに病弱で、廻船問屋兼薬種問屋の離れになかば幽閉されるように寝起きし、両親はもちろん店中の者から過保護に扱われている。ことに二人の手代が四六時中そばにいて、しつこいくらいにあれこれ世話を焼いてくれる。そしてなぜか、店にはたくさんの妖(あやかし)が棲んでおり、件の二人の手代も実は人の姿に化けた妖怪。若だんなにとっては友だちのような妖怪たちだが、二人の手代をのぞけば、他の者には姿が見えず、その存在さえ知られていない。そしてとある晩、若だんなは、ひょんなことから猟奇殺人事件に巻き込まれる。やがて自らも命を狙われる身となった若だんなは、仲間の妖たちとともにその事件の謎に挑む……。続きを読む


2006年03月12日

告白 / 町田康 [書評]

告白告白
町田康
単行本, 中央公論新社, 2005/03/25

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 時代は明治。河内の百姓の倅として生まれた主人公熊太郎は、ひどく思弁的でありながら、その思弁を伝える言葉を持たず、それがために周囲とうまく交わることができない。思考と言動とが直結している他者が軽薄な人間に見え、奴らには自分のように内面で深い思慮を重ねている人間のことは理解できないだろうと思っている。いきおい熊太郎の思弁は内向し、身体の中で暴れ出し、自身を蝕み、あげく愚行となって表出する。それによって熊太郎はますます孤立を深め、やがて彼は、河内音頭にも唄われる「河内十人斬り」の惨劇へと向かってゆく。

 どこで聞いた話だったか、作家のもとに寄せられる読者からの手紙やメールには、「あれは私のことですね。どうして私のことをそんなによく知っているんですか?」とか「私に黙って勝手に私のことを書くなんてひどいじゃないですか」とかいうのがたまにあるという。また、そこまで重症ではなくとも、「私と主人公とにはこれこれこういう共通点があるので、私には主人公の気持ちがよくわかります」という自意識過剰な読書感想文は珍しくない。そういうのを見るたびに鼻白んでしまうのは、ひとり佐吉だけではあるまい。続きを読む


2005年11月10日

PAY DAY!!! / 山田詠美 [書評]

PAY DAY!!!PAY DAY!!!
山田詠美
文庫本, 新潮社, 2005/07

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 山田詠美の作品はとてもわかりやすい。この作品は何を語っているのかなどと問うまでもなく、それが何であるのかを彼女がすべて作品の中で語っている。変にかまえた言い方はせず、それでいて印象的な会話やフレーズが贅沢に散りばめられ、それらがじかに読者の心に響いてくる。読者はただ彼女の紡ぎ出す言葉に身を任せて読み進めれば良い。それだけで彼女が言おうとしていることはきちんと伝わってくる。山田詠美の作品は真摯で率直で、そして雄弁である。

 双子の兄妹ハーモニーとロビンは、両親と共にニューヨークに暮らしていた。しかし、彼らが15歳のときに両親が離婚、兄ハーモニーは父親に付いて彼の故郷である南部に移り、妹ロビンは母親と一緒にニューヨークに残る。その後、2001年9月11日の同時多発テロによって母親は行方不明となり、一人残されたロビンもまた父の下に身を寄せることになる。続きを読む



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