![]() | きのこ文学大全 飯沢耕太郎 新書, 平凡社, 2008/12 |
なんとも風変わりなタイトルだが、決して奇を衒っているわけではない。冒頭の「きのこ文学宣言」で飯沢は云う。
図書館などに行くと、きのこについての本はたいてい自然科学のコーナーに分類されている。かねがね、人文系のきのこ図書がまったくないことに大きな不満を抱いていた。後で詳しく見るように、きのこのイメージは文学作品の中で見過ごすことのできないユニークな場所を占めている。どういうことか。
きのこは実に多彩で奇妙な生き物だ。学名のついているものだけでも2万〜3万種、実際には50万種以上のきのこが存在すると推定され、その色も形も大きさも千差万別。食材や薬種として珍重されるものもあれば、深刻な中毒症状をもたらす毒きのこもある。およそきのこほど変異体の多い生き物は他になく、極言すれば、その一本一本が独立種だということさえできる。きのこについてはまだまだわからないことが多く、その存在自体がなんとも謎めいていて蠱惑的である。続きを読む