2009年01月17日

きのこ文学大全 / 飯沢耕太郎 [書評]

きのこ文学大全きのこ文学大全
飯沢耕太郎

新書, 平凡社, 2008/12

 なんとも風変わりなタイトルだが、決して奇を衒っているわけではない。冒頭の「きのこ文学宣言」で飯沢は云う。
 図書館などに行くと、きのこについての本はたいてい自然科学のコーナーに分類されている。かねがね、人文系のきのこ図書がまったくないことに大きな不満を抱いていた。後で詳しく見るように、きのこのイメージは文学作品の中で見過ごすことのできないユニークな場所を占めている。
 どういうことか。

 きのこは実に多彩で奇妙な生き物だ。学名のついているものだけでも2万〜3万種、実際には50万種以上のきのこが存在すると推定され、その色も形も大きさも千差万別。食材や薬種として珍重されるものもあれば、深刻な中毒症状をもたらす毒きのこもある。およそきのこほど変異体の多い生き物は他になく、極言すれば、その一本一本が独立種だということさえできる。きのこについてはまだまだわからないことが多く、その存在自体がなんとも謎めいていて蠱惑的である。続きを読む
2008年03月20日

翻訳家の仕事 / 岩波書店編集部編 [書評]

翻訳家の仕事翻訳家の仕事
岩波書店編集部編

新書, 岩波書店, 2006/12

 翻訳とは、考えれば考えるほどわけのわからない行為である。ある言語で書かれたことがらを、完全に他の言語に置き換えることは原理的にできない。なのに翻訳家たちは、そんなことは百も承知で、原著と限りなく等価に近い相似物を創ろうと、訳語一つに呻吟する。いったい翻訳の何が彼らを惹きつけるのか。そもそも翻訳とはどういうことなのか。単純に答えの出せる質問ではないだろうが、本書はそんなつかみどころのない設問に対し、いくつかの手がかりを与えてくれる。

 本書は、岩波書店の雑誌『図書』に連載された「だから翻訳はおもしろい」をまとめたエッセイ集である。現役の翻訳家37人が、翻訳の魅力や苦悩や愉悦をありのままに語っている。高尚な比較文化論を展開する人、自らの来し方を振り返る人、翻訳にまつわる軽妙なエピソードを紹介する人、語り口は十人十色である。続きを読む
2008年03月05日

古本屋の女房 / 田中栞 [書評]

古本屋の女房古本屋の女房
田中栞

単行本, 平凡社, 2004/11

 古本屋の店主や古書の愛好家が、古本屋にまつわるエピソードや古書についての薀蓄を語った書は枚挙に暇がない。そうした「古本の本」は古本好きにはこたえられないものである。評者もご多分にもれず、作家にして古書店の店主でもあった出久根達郎や、無類の古本好きで「神保町ライター」を自称する岡崎武志などのエッセイを愛読している。本書『古本屋の女房』もまた古本と古本屋について書かれたエッセイの一冊なのだが、この本は著者が女性であるという点で、ひときわ異彩を放っている。

 著者の田中栞は、本好き、古本好きが高じて古本屋の主人と結婚し、文字通り「古本屋の女房」となった女性である。そんな彼女だから、妊娠、出産、育児と家庭のことに追われながらも、趣味と実益を兼ねた古書マニアはやめられない。大きなお腹を抱えて、赤ん坊を負ぶって、ベビーカーを押して、おじさんたちの加齢臭立ちこめる古書展に出向き、篆刻教室に通ってオリジナルの蔵書印を作り、全国各地の古本屋を訪ねてはせどりに励む。ちなみに「せどり」とは、ブックオフの100円均一本など他の古書店で安く仕入れた書籍を、より高い値段で転売して利鞘を稼ぐことをいう。続きを読む
2007年03月09日

字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ / 太田直子 [書評]

字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
太田直子

新書, 光文社, 2007/02/16

 太田は、これまで千本以上の映画の字幕を手がけてきた字幕翻訳者である。本書は、そんな彼女が映画翻訳の舞台裏や、言葉に携わるものとして気になる日本語の用法のあれこれについて語ったエッセイである。

 字幕翻訳の、他の分野の翻訳と最も大きく異なる点は、その字数制限にある。スクリーン上に表示できる字数には限りがあるし、字幕は役者が台詞をしゃべっている間に、観客が読みきれるものでなければならない。太田によると、観客が読める字数は、一秒間にわずか四文字(!)なのだという。

 また映画字幕には、一般的な観客にわからない専門用語や難読漢字は使えないし、禁止用語にも気を配らなければならない。人称代名詞の選び方も大事だし、原語の語順を考慮しなければならない場合もある。文化の違いも厄介な問題だし、さまざまな専門知識も求められる。そうした特殊な制約や要求のもと、大切な情報やニュアンスを、映画のイメージに沿って、ほんのわずかな字数で伝えてゆく字幕翻訳者の奮闘ぶりを、太田は小気味良いテンポで綴ってゆく。続きを読む
2006年09月11日

成功する読書日記 / 鹿島茂 [読書日記]

成功する読書日記成功する読書日記
鹿島茂

単行本, 文藝春秋, 2002/10

 あるいはタイトルから、「こうすれば必ず出世する」とか「オレはこうして成功した」とかいった、ビジネス書や生き方指南書の類を想像された方もいらっしゃるかもしれない。が、そうではない。本書は、1998年から2001年にかけて雑誌『週刊文春』に連載された著者の「私の読書日記」を収録し、あわせて読書日記をつけることを通して読書をより充実したものにする方法を説いたものである。著者は、フランス文学者にして翻訳家、エッセイストとしても知られる鹿島茂。彼の「読書日記」で紹介されている書籍も、ほとんどが人文系のそれである。

 さて、佐吉がこのブログを開設してから一年半になる。更新は平均して月に数回という怠慢きわまりないブログだが、それでも佐吉は佐吉なりに、さまざまな書籍について、書評(と自分では思っているもの)や雑感やその書籍に関連した身辺雑記などを書き散らしてきた。本を読んで何かしら感じるところがあれば、それを誰かに伝えたいと思う。しかしいざそれを実行しようとすると、今に至るも何をどう書いたら良いのかさっぱりわからない。わからないままに佐吉はこうして駄文を晒し続けている。だからいきおい書店でもこうしたタイトルに目が行く。そうして見つけたこの本は、佐吉にとって案外掘り出し物だった。続きを読む
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