2008年05月13日

償い / 矢口敦子 [読書日記]

償い償い
矢口敦子

文庫本, 幻冬舎, 2003/06

 36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の街で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが……。絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか? 感動の長篇ミステリ。(カバーの紹介文より)
 当初はほとんど注目されなかったこの作品が、ここにきて急に再評価されるようになったとかで、なるほど近頃どこの書店に行っても、派手なPOPとともにこの青い表紙が目に留まる。当然ご存知の方も多いと思うが、佐吉もそんな「不思議な現象」に興味を覚え、はじめての著者なのにろくに立ち読みもせず、本書を買い求めたのだった。続きを読む
2008年01月10日

おまけのこ / 畠中恵 [読書日記]

おまけのこおまけのこ
畠中恵

文庫本, 新潮社, 2007/12

 畠中恵は、漫画家としていくつかの作品を発表するかたわら作家を志し、ミステリー作家の都筑道夫に師事したのち、2001年、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、小説家としてデビューした。

 受賞作の『しゃばけ』は、病弱でしょっちゅう臥せっているが、情に厚く、案外芯の強い大店の若だんな一太郎と、手代の仁吉、佐助をはじめ、彼を取りまくさまざまな妖(あやかし)たちが怪事件の謎を解く、ミステリー仕立ての時代物ファンタジーである。のちにシリーズ化され、現在、第6弾までが刊行されている。

 『しゃばけ』シリーズは、そのライトノベルのような感覚が受け、時代物にはめずらしく若い女性を中心に人気がある。一方で畠中の時代小説は、本格的な時代物としての描写にも定評がある。『しゃばけ』シリーズとは別に、妖たちの登場しない時代物ミステリーとして書かれた『まんまこと』(佐吉は未読)は、昨年、直木賞の候補に挙がっている。続きを読む
2007年06月28日

古本綺譚 / 出久根達郎 [読書日記]

古本綺譚古本綺譚
出久根達郎

文庫本, 中央公論社, 1990/03

 出久根達郎の『古本綺譚』を読む。愛書家や古本屋たちを主人公に、古本をめぐる風変わりな物語を描いた、当時古書店の店主でもあった著者ならではの短編集である。

 中に『狂聖・芦原将軍探索行』という中編がある。芦原将軍は、1852年(嘉永5年)、金沢に生まれ、本名を芦原(葦原、あるいは蘆原とも)金次郎という。元は櫛職人だったが、24歳で誇大妄想症(精神分裂症)を発症し、以来88歳で世を去るまでの生涯を精神病院で過ごした風狂の人である。金次郎は将軍、あるいは天皇を名乗り、手製の軍服を着て、公然と政府や軍を批判し、勅令や勅語を発しては、それを、彼を訪ねる人々に売りつけた。時あたかも、日清・日露戦争を経て、日本が太平洋戦争へと突き進んでいた時代だった。

 しかし、将軍は時事問題に精通し、その批判は毎度毎度、実に的を射たものだった。元より狂人の発言だけに、誰にも遠慮会釈のない歯に衣着せぬ意見だった。それに目をつけたマスコミは、こぞって将軍の話題を取り上げた。もちろん言論の自由などない時代の話である。つまり彼らは、狂人の発言にかこつけて権力批判をしていたのである。そして民衆もまた将軍の言葉に溜飲を下げた。将軍の人気はいやがうえにも高まっていき、記者たちはネタに詰まるたびに将軍を訪ねた。かくして将軍は時代の寵児に祭り上げられていった。続きを読む
2007年05月30日

御書物同心日記 / 出久根達郎 [読書日記]

御書物同心日記御書物同心日記
出久根達郎

文庫本, 講談社, 2002/12

 先日イーブックオフに注文した古本の小包が届いた。いそいそと開梱し、中身を取り出す。するとその中の1冊から、はらりと白い紙片が落ちた。

 形と大きさから察するに栞だろう。古本にかつての所有者の栞や栞代わりの紙片が挟まっていることは珍しくない。たまにちょっと面白いものが入っていることもある。たとえばこのあいだ近所のブックオフで買った伊藤比呂美『日本の霊異(フシギ)な話』には、竹久夢二伊香保記念館の入場券の半券が挟まれていたし、同じく金田一春彦『日本語を反省してみませんか』には、おそらく幼稚園児か小学校低学年の子供が工作の時間に作ったものだろう、押し花をピンクの画用紙と透明のプラスチック板で挟んだ、手作りの栞が残っていた。

 普段なら古本については値段と状態以外はおよそ気にかけない佐吉だが、それでもそんなのを見ると、ついあれこれ想像してしまう。かつてこの本をどういう人が読み(あるいは読みさし)、どういう理由で手放したんだろう、ひょっとしてこの栞は、その人にとって大切な思い出の品なんじゃないだろうか、もしかすると、その人はこれを失くしたことを気に病んでいるかもしれない……。

 しかしその紙片は、そんな乙女チックな夢想とはまるで無縁なものだった。裏返してみるとそこには、無機質な書体でこんな慇懃な文言が印刷されていた。続きを読む
2007年05月10日

キトキト! / 吉田康弘 [読書日記]

キトキト!キトキト!
吉田康弘

単行本, メディアファクトリー, 2007/03

 著者の吉田康弘は、1979年生まれ、現在27歳の新進の映画監督である。井筒和幸に師事し、今年(2007年)、自ら脚本を手がけた本書と同名の映画で監督としてデビューした。本書は、その映画の製作と合わせて書かれた、彼の初の小説である。

 主人公優介は18歳。気丈でやたらとパワフルな母親と、今どき珍しいスケ番の姉と共に、地方の小都市に暮らしていたが、3年前に姉が家出、彼もまたある事件をきっかけに高校を中退する。

 以来優介は、暴走族に加わり無為な日々を送っていたが、やがてそんな生活に疑問を抱くようになり、気障りな母と「なーんつまらんこの町」から逃げるようにして東京へ向かう。何の当てもないまま辿り着いた新宿で、優介はたまたま見かけたホストクラブの看板に惹かれ、ホストの仕事を始めるのだが……。続きを読む
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