![]() | 古本屋の女房 田中栞 単行本, 平凡社, 2004/11 Amazon |
古本屋の店主や古書の愛好家が、古本屋にまつわるエピソードや古書についての薀蓄を語った書は枚挙に暇がない。そうした「古本の本」は古本好きにはこたえられないものである。評者もご多分にもれず、作家にして古書店の店主でもあった出久根達郎や、無類の古本好きで「神保町ライター」を自称する岡崎武志などのエッセイを愛読している。本書『古本屋の女房』もまた古本と古本屋について書かれたエッセイの一冊なのだが、この本は著者が女性であるという点で、ひときわ異彩を放っている。
著者の田中栞は、本好き、古本好きが高じて古本屋の主人と結婚し、文字通り「古本屋の女房」となった女性である。そんな彼女だから、妊娠、出産、育児と家庭のことに追われながらも、趣味と実益を兼ねた古書マニアはやめられない。大きなお腹を抱えて、赤ん坊を負ぶって、ベビーカーを押して、おじさんたちの加齢臭立ちこめる古書展に出向き、篆刻教室に通ってオリジナルの蔵書印を作り、全国各地の古本屋を訪ねてはせどりに励む。ちなみに「せどり」とは、ブックオフの100円均一本など他の古書店で安く仕入れた書籍を、より高い値段で転売して利鞘を稼ぐことをいう。
本書の紹介文で彼女自身が云っているように、田中は『古本屋と古本業界と家庭の裏事情を赤裸々に』綴っている。生活感あふれる語り口で、こんなことまで明かしていいのかと思うようなことさえ、あきれるほどおおらかに語っている。本文に60点近く挿入された彼女自身の手になるイラストもほのぼのとして楽しい。幼い子どもの手を引き、大きなリュックを背負い、文庫本をぎっしり詰めたショッピング・カートを引いて、次はこの店、今度はあの店と、せどりに全国を駆け回る彼女の奮闘ぶりは実に痛快で、そのパワフルさに思わず圧倒されそうになる。続きを読む






