![]() | 家守綺譚 梨木香歩 単行本, 新潮社, 2004/01 Amazon |
「文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる」駆け出しの物書き綿貫征四郎は、若くして亡くなった学友高堂の実家に、ひとり家守として起臥している。時代はおよそ百年前の明治の末、場所は登場する地名から京都周辺と察せられるが、いずれもはっきりとは示されていない。
とある嵐の晩、征四郎が布団を引っかぶって寝ようとすると、床の間の掛け軸から何やら音が聞こえてくる。
布団から頭だけそろりと出して、床の間を見ると、掛け軸の中のサギが慌てて脇へ逃げ出す様子、いつの間にか掛け軸の中の風景は雨、その向こうからボートが一艘近づいてくる。漕ぎ手はまだ若い……高堂であった。近づいてきた。のみならず高堂は、征四郎に「庭のサルスベリの木がおまえに懸想している」と告げ、征四郎は征四郎で、その言葉に「実は思い当たるところがある」と得心する。そうして「家守」征四郎の「綺譚」は始まる。河童、仔竜、人魚、小鬼、桜鬼……。さまざまな怪異が、まるで季節の風物がごとく、征四郎の周辺に現れては消えてゆく。続きを読む
――どうした高堂。
私は思わず声をかけた。
――逝ってしまったのではなかったのか。
――なに、雨に紛れて漕いできたのだ。
高堂は、こともなげに云う。






