2007年07月02日

あやしい本棚 / 中野翠 [読書日記]

あやしい本棚あやしい本棚
中野翠
単行本, 文藝春秋, 2001/04

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 中野翠の『あやしい本棚』(2001)を読む。先日Yahoo!オークションで、「本棚セット」と称して、川本武の『本棚が見たい!1〜3』(1996〜1998)、唐沢俊一の『カルトな本棚』(1997)と抱き合わせで出品されていたのを落札したものである。

 ちなみに『本棚が見たい!』と『カルトな本棚』は、それぞれタイトルのとおり、さまざまな知識人やカルトな人々の本棚を取材し、あわせて各人の読書論を紹介したものだが、『あやしい本棚』はそうした「本棚拝見本」ではなく、さまざまな雑誌や新聞に掲載された中野の書評集である。

 中野翠については、佐吉は名前こそ知っていたが、その著作を読んだことはなかった。もちろん今回の落札に関しても、中野の本が目当てというわけではなかった。が、それは思いがけず、他の4冊以上にめっけものだった。続きを読む


2007年06月28日

古本綺譚 / 出久根達郎 [読書日記]

古本綺譚古本綺譚
出久根達郎
文庫本, 中央公論社, 1990/03

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 出久根達郎の『古本綺譚』を読む。愛書家や古本屋たちを主人公に、古本をめぐる風変わりな物語を描いた、当時古書店の店主でもあった著者ならではの短編集である。

 中に『狂聖・芦原将軍探索行』という中編がある。芦原将軍は、1852年(嘉永5年)、金沢に生まれ、本名を芦原(葦原、あるいは蘆原とも)金次郎という。元は櫛職人だったが、24歳で誇大妄想症(精神分裂症)を発症し、以来88歳で世を去るまでの生涯を精神病院で過ごした風狂の人である。金次郎は将軍、あるいは天皇を名乗り、手製の軍服を着て、公然と政府や軍を批判し、勅令や勅語を発しては、それを、彼を訪ねる人々に売りつけた。時あたかも、日清・日露戦争を経て、日本が太平洋戦争へと突き進んでいた時代だった。

 しかし、将軍は時事問題に精通し、その批判は毎度毎度、実に的を射たものだった。元より狂人の発言だけに、誰にも遠慮会釈のない歯に衣着せぬ意見だった。それに目をつけたマスコミは、こぞって将軍の話題を取り上げた。もちろん言論の自由などない時代の話である。つまり彼らは、狂人の発言にかこつけて権力批判をしていたのである。そして民衆もまた将軍の言葉に溜飲を下げた。将軍の人気はいやがうえにも高まっていき、記者たちはネタに詰まるたびに将軍を訪ねた。かくして将軍は時代の寵児に祭り上げられていった。続きを読む


2007年06月20日

あなたに似た人 / ロアルド・ダール [書評]

あなたに似た人あなたに似た人
ロアルド・ダール, Roald Dahl, 田村隆一
文庫本, 早川書房, 2000

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 ロアルド・ダール『あなたに似た人』を読む。

 ダールは、『チョコレート工場の秘密』などの児童文学作品でつとに有名だが、同時に、しばしば「奇妙な味」と評される、独特のブラック・ユーモアに満ちた短編小説でも知られる鬼才である。『あなたに似た人』は、1953年に発表されたダールの初期の短編集であり、巷間ではこの作品をもって、彼の代表作、最高傑作とする声も高い。

 ダールの作品世界については、作家都築道夫の言が的確である。本書の訳者あとがきで田村隆一が引用しているので、ここに孫引きしておこう。
 「ダールは大ざっぱに言って、ふたつのテーマしかあつかわない。賭博に打ちこむ人間たちの心の恐しさ。それと人間の想像力の恐しさ、つまり、実際にはなんの現象もないところでも、人間があつまるとその想像力から、こんな恐しいことも起るのですよ、という恐しさ。このふたつのテーマである。(送り仮名は原文のまま)」
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2007年06月13日

ポートレイト−内なる静寂 / アンリ・カルティエ=ブレッソン [読書日記]

ポートレイト−内なる静寂ポートレイト−内なる静寂
アンリ・カルティエ=ブレッソン, Henri Cartier-Bresson
大型本, 岩波書店, 2006/10

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 ふふふ、今日の読書日記はちょっと自慢げである。

 昨年10月、岩波書店から、アンリ・カルティエ=ブレッソン『ポートレイト−内なる静寂』という写真集が刊行された。

 アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908-2004)は、世界のフォト・ジャーナリズムに最も大きな影響を与えたと云われる、20世紀を代表する写真家であり、「世界最高の写真家集団」、かのマグナム・フォト(Magnum Photos)の創設者の一人でもある。カルティエ=ブレッソンは、35mmレンジファインダーを使ってのスナップショットを得意とし、またポートレート(人物写真)でも数多くの傑作を遺した。『内なる静寂』は、彼が50年以上に渡って、それぞれの時代の顔とも云うべき著名人や、際立って印象的な市井の人々を撮影した、ポートレートの傑作集である。続きを読む


2007年05月30日

御書物同心日記 / 出久根達郎 [読書日記]

御書物同心日記御書物同心日記
出久根達郎
文庫本, 講談社, 2002/12

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 先日イーブックオフに注文した古本の小包が届いた。いそいそと開梱し、中身を取り出す。するとその中の1冊から、はらりと白い紙片が落ちた。

 形と大きさから察するに栞だろう。古本にかつての所有者の栞や栞代わりの紙片が挟まっていることは珍しくない。たまにちょっと面白いものが入っていることもある。たとえばこのあいだ近所のブックオフで買った伊藤比呂美『日本の霊異(フシギ)な話』には、竹久夢二伊香保記念館の入場券の半券が挟まれていたし、同じく金田一春彦『日本語を反省してみませんか』には、おそらく幼稚園児か小学校低学年の子供が工作の時間に作ったものだろう、押し花をピンクの画用紙と透明のプラスチック板で挟んだ、手作りの栞が残っていた。

 普段なら古本については値段と状態以外はおよそ気にかけない佐吉だが、それでもそんなのを見ると、ついあれこれ想像してしまう。かつてこの本をどういう人が読み(あるいは読みさし)、どういう理由で手放したんだろう、ひょっとしてこの栞は、その人にとって大切な思い出の品なんじゃないだろうか、もしかすると、その人はこれを失くしたことを気に病んでいるかもしれない……。

 しかしその紙片は、そんな乙女チックな夢想とはまるで無縁なものだった。裏返してみるとそこには、無機質な書体でこんな慇懃な文言が印刷されていた。続きを読む



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