![]() | 煙る鯨影 駒村吉重 単行本, 小学館, 2008/01/31 |
日本には今も現役の商業捕鯨船が存在する。
と云うと、あるいは意外に思われる方もいらっしゃるかもしれない。国際捕鯨委員会(IWC)における「商業捕鯨の一時停止」措置の決定を受け、日本では現在、調査捕鯨のみが行われていて、商業捕鯨はまったく行われていない、と、きっと多くの方が思われているに違いない。評者もこの本に出会うまではそう思っていた。
しかし実際には、IWCが保護の対象としているのは、83種の鯨類のうち、シロナガス鯨、セミ鯨、イワシ鯨などの髭鯨を中心とする13の大型種であって、それ以外の鯨類については、今もなお商業捕鯨が可能なのである。
とは云え、需要と供給のバランスから云えば、大型鯨類の捕獲禁止は、事実上、商業捕鯨の全面禁止に等しい。水産庁の管理のもと、現在日本で5艘のみが操業している小型捕鯨船が獲っているのは、肉に独特の臭みがあるため、国内でも一部の地域でしか需要のない、ゴンドウ鯨、ツチ鯨といった小型の歯鯨である。しかもそのわずかな需要さえ、近年、徐々に減りつつあり、ただでさえ逼迫している日本の商業捕鯨を取り巻く環境は、出口の見えないトンネルの中にいるようである。本書は、そうした厳しい状況の中、それでもなお鯨を追い続ける海の男たちを追った、著者渾身のドキュメンタリーである。続きを読む





